第八十五章『白銀の村』
雪原での戦闘を終えた頃には、
空は薄暗く染まり始めていた。
黒い怪物たちは消滅したが、
嫌な気配だけは残っている。
騎士たちも疲弊していた。
「被害確認を急げ!」
レオンハルトが指示を飛ばす。
その間、
ガブリエラたちは目的地である北部の村へ向かっていた。
白銀の村。
雪深い小さな集落。
だが。
村へ近づくにつれ、
空気が重くなる。
静かすぎる。
人の気配がほとんどない。
ガブリエラは胸騒ぎを覚えた。
馬車を降りる。
冷たい風。
雪。
そして。
村の中心に立つ、
白い影。
ガブリエラの呼吸が止まる。
「……セレフィナ」
白い神官服。
銀髪。
金色の瞳。
セレフィナは雪の中で、
静かに微笑んでいた。
まるで。
最初から待っていたみたいに。
ノクスが即座に、
ガブリエラの前へ立つ。
庇うように。
その動きに、
セレフィナは小さく目を細めた。
「本当に大切なんですね」
「近づくな」
ノクスの声は冷たい。
セレフィナは肩を竦める。
「そんなに警戒しなくても、
今日は争いに来たわけではありません」
レオンハルトが鋭く問う。
「なら何をしている」
セレフィナは村を見渡した。
家々。
凍った地面。
静かな雪。
そして。
ぽつりと呟く。
「遅かったですね」
その言葉と同時に。
ガブリエラは気づく。
村人たち。
全員、
眠るように倒れていた。
「……っ!」
駆け寄る。
だが。
息はある。
死んではいない。
まるで、
魂だけ抜け落ちたみたいだった。
騎士たちがざわめく。
「なんだこれは……」
セレフィナは静かに言う。
「裂け目に魂を喰われたのです」
ガブリエラの背筋が冷える。
セレフィナは続けた。
「このままでは、
各地で同じことが起きます」
ノクスが眉をひそめる。
「防ぐ方法は」
セレフィナはガブリエラを見る。
真っ直ぐに。
「巫女の力を完全に目覚めさせること」
ガブリエラの胸がざわつく。
またその話。
セレフィナはゆっくり近づいた。
だが。
途中でノクスが立ち塞がる。
赤い瞳が鋭く光る。
「それ以上近づくな」
セレフィナは小さく笑った。
「独占欲が強いですね」
「今更だろ」
即答だった。
ガブリエラの顔が少し熱くなる。
こんな状況なのに。
でも。
ノクスのその態度が、
少しだけ安心させてくれる。
セレフィナはそんな二人を見て、
どこか寂しそうに目を伏せた。
「……羨ましいですね」
その一言に。
ガブリエラは少しだけ、
違和感を覚えた。
まるで。
セレフィナも昔、
誰かを失ったことがあるみたいに。
その時。
突然。
村の地下から、
低い咆哮が響いた。
地面が揺れる。
騎士たちが剣を構えた。
セレフィナの表情が変わる。
「……目覚めた」
次の瞬間。
村の中央が崩壊した。
黒い泥が、
噴き上がるように溢れ出す。
その中心から。
巨大な“目”が、
ゆっくり開いた。




