第八十四章『嫉妬と独占』
「敵襲!!」
騎士の叫び声と同時に、
馬車が激しく揺れる。
ガブリエラは反射的にバランスを崩した。
「きゃっ」
だが。
倒れる前に、
ノクスが腕を引く。
気づけば、
彼の胸の中だった。
「危な」
低い声。
近い。
ガブリエラの心臓が跳ねる。
レオンハルトが呆れた顔をした。
「こんな時でも自然にやるんだな」
「癖」
「直せ」
ノクスは笑うだけだった。
外では剣戟の音が響いている。
黒い気配。
また裂け目だ。
レオンハルトが立ち上がる。
「来るぞ」
次の瞬間。
馬車の屋根が吹き飛んだ。
轟音。
黒い泥の怪物が飛び込んでくる。
騎士たちが吹き飛ばされた。
「っ!」
ガブリエラが光を放つ。
結界。
怪物の爪が弾かれる。
ノクスはそのまま、
黒炎を叩き込んだ。
爆発。
怪物が吹き飛ぶ。
だが。
裂け目の中から、
次々異形が現れていた。
「数が多い……!」
レオンハルトが剣を抜く。
蒼い光。
一閃で怪物を切り裂いた。
戦闘が始まる。
雪原。
黒い怪物。
飛び交う魔力。
その中で。
ノクスは常に、
ガブリエラの近くにいた。
敵を焼き払いながらも、
視線だけは彼女から逸らさない。
まるで。
少しでも離れたら、
消えてしまうと思っているみたいに。
ガブリエラは気づく。
ノクスは昨日から、
前よりずっと触れてくる。
手を繋ぐ。
抱き寄せる。
離さない。
それは甘いだけじゃない。
不安の裏返しだ。
ガブリエラが傷つくのが、
怖いのだ。
その時。
背後から怪物が飛びかかった。
「ガブリエラ!!」
レオンハルトの声。
だが。
反応するより早く。
ノクスの黒炎が怪物を消し飛ばしていた。
轟音。
魔力が荒れる。
周囲の雪が溶けるほどの熱量。
ガブリエラの顔が青ざめる。
「ノクス!」
ノクスは息を荒げながら振り返る。
赤い瞳。
少し危うい光。
「……触んな」
低い声。
怪物へ向けた殺気だった。
ガブリエラは胸が痛くなる。
また。
力が暴れ始めている。
ガブリエラは迷わず、
ノクスの手を掴んだ。
「大丈夫」
その瞬間。
荒れていた黒炎が、
少し静まる。
ノクスの目が揺れた。
ガブリエラは真っ直ぐ彼を見る。
「ちゃんとここにいる」
ノクスはしばらく黙る。
やがて。
困ったように笑った。
「……ほんと、
お前ずるい」
そして。
戦場の真ん中だというのに。
ノクスはガブリエラの額へ、
そっと口づけた。
「っ!?」
ガブリエラの顔が真っ赤になる。
レオンハルトが頭を抱えた。
「お前ら、
少しは場所を考えろ!!」
ノクスは珍しく上機嫌だった。
「無理」
完全に開き直っていた。




