第八十三章『隣にいる理由』
食堂の空気が一変した。
さっきまでの騒がしさが嘘みたいに、
静まり返る。
「……セレフィナか」
レオンハルトが低く呟く。
騎士は頷いた。
「目撃証言では、
白い聖獣も確認されています」
ノクスが舌打ちした。
「嫌なタイミングだな」
ガブリエラは胸元の水晶を握る。
微かに熱い。
まるで、
セレフィナへ反応しているみたいに。
レオンハルトは立ち上がった。
「すぐ向かう」
騎士が頭を下げる。
「既に騎士団は出発準備中です」
レオンハルトはノクスを見る。
「お前も来るか」
ノクスは当然のように答えた。
「行く」
そして。
迷いなくガブリエラを見る。
「お前もだろ?」
ガブリエラは一瞬驚いた。
止められると思っていたから。
ノクスはそんな彼女を見て、
少し笑う。
「その顔、
行く気満々じゃねぇか」
図星だった。
ガブリエラは苦笑する。
「……放っておけないから」
ノクスの赤い瞳が、
優しく細められる。
「知ってる」
その視線だけで、
胸が熱くなる。
レオンハルトは小さくため息を吐いた。
「無茶だけはするな」
「善処する」
「信用できん」
即答だった。
だが。
その時。
ノクスがふいに、
ガブリエラの手を握った。
自然な動作。
けれど。
まだ慣れないガブリエラは、
心臓が跳ねる。
「ノ、ノクス?」
「離れんなよ」
低い声。
真剣だった。
ガブリエラは少しだけ目を見開く。
ノクスは普段、
余裕そうに見える。
でも。
本当は不安なのだ。
昨日の戦い。
暴走しかけた魔力。
失うかもしれない恐怖。
全部、
抱え込んでいる。
ガブリエラはそっと、
握られた手を握り返した。
「……うん」
ノクスの目が、
ほんの少し揺れる。
それから。
照れ隠しみたいに笑った。
「そういう素直なの、
ずるい」
「えぇ……」
ガブリエラが困っていると、
レオンハルトが冷静に口を挟む。
「イチャつくなら移動しながらにしろ」
「イチャついてない!」
「してる」
ノクスとレオンハルトが同時に言った。
ガブリエラは顔を覆う。
もう駄目だった。
――――――
数時間後。
北部へ向かう馬車の中。
窓の外は雪景色。
空気は冷たい。
だが。
馬車の中は妙に近かった。
理由は簡単。
ノクスが隣から離れない。
「ノクス」
「ん?」
「近い」
「恋人だし」
またそれ。
ガブリエラの顔が熱くなる。
向かい側では、
レオンハルトが本を読んでいた。
だが。
ページが全然進んでいない。
絶対聞いてる。
ガブリエラは耐えきれず、
小声で言う。
「人前では少し控えて……」
すると。
ノクスが顔を寄せた。
耳元。
吐息が近い。
「二人きりならいいのか?」
「っ!!」
ガブリエラの思考が真っ白になる。
ノクスが楽しそうに笑った。
完全に遊ばれている。
だが。
その時だった。
馬車が急停止する。
「っ!?」
外から、
騎士の叫び声が響いた。
「敵襲!!」
同時に。
空気が禍々しく震えた。




