第八十二章『恋人として』
食堂中の視線が、
ガブリエラへ集まっていた。
侍女たちは完全に盛り上がっている。
「昨日の戦いのあと絶対そうだと思ってた!」
「ノクス様ずっと抱き締めてましたもんね!」
「きゃー!!」
ガブリエラは羞恥で倒れそうだった。
「お願いだから静かにしてぇ……!」
ノクスは隣で肩を震わせて笑っている。
絶対面白がってる。
ガブリエラが睨むと、
ノクスは悪びれもなく言った。
「だって可愛いし」
「朝からそういうこと言わないで!!」
また侍女たちが騒ぐ。
もう地獄だった。
レオンハルトが深いため息を吐く。
「お前ら、
少しは周囲を気にしろ」
「気にしてるだろ」
「全く見えん」
ノクスは当然のように、
ガブリエラの椅子を引いた。
「座れ」
「……ありがとう」
ガブリエラが座ると、
ノクスも隣へ座る。
距離が近い。
近すぎる。
以前と違って、
遠慮がゼロだった。
パンを取ろうとした瞬間。
ノクスが先に皿へ乗せる。
スープも注ぐ。
飲み物まで。
「え、
自分でできるよ?」
「知ってる」
「じゃあ何で」
ノクスはさらっと答えた。
「世話焼きたい」
ガブリエラは言葉を失った。
心臓がもたない。
レオンハルトが頭痛を堪える顔になる。
「朝から砂糖吐きそうだ」
「慣れろ」
「無理だ」
即答だった。
ガブリエラは恥ずかしくて、
パンへ逃げるようにかぶりついた。
その時。
ノクスがふいに、
ガブリエラの口元へ触れる。
「パン屑」
親指でそっと拭われた。
至近距離。
赤い瞳が優しく細められる。
ガブリエラの顔が熱くなる。
ノクスはそのまま、
ガブリエラへだけ聞こえる声で囁いた。
「……昨日より可愛い」
「っ!!」
限界。
ガブリエラは完全に机へ突っ伏した。
「もう無理……」
ノクスが楽しそうに笑う。
レオンハルトは冷めた目だった。
「お前、
恋人になってから悪化してるな」
「今まで我慢してたからな」
「聞きたくなかった」
ガブリエラは真っ赤なまま動けない。
だが。
そんな騒がしい空気を、
突然の足音が切り裂いた。
騎士が慌てた様子で駆け込んでくる。
「殿下!!」
レオンハルトの表情が即座に変わる。
「どうした」
騎士は息を切らしながら報告した。
「北部の村が襲われました!」
空気が凍る。
騎士は続ける。
「黒い裂け目が出現し、
住民が消えています!」
ガブリエラの胸がざわついた。
また。
あの怪物だ。
ノクスの表情からも、
笑みが消える。
騎士はさらに言った。
「それと……現場に、
白い神官服の女がいたと」
静寂。
セレフィナ。
ガブリエラは無意識に、
胸元の水晶を握り締めていた。




