第八十一章『甘すぎる朝』
翌朝。
ガブリエラは、
人生で一番落ち着かない朝を迎えていた。
「…………」
鏡の前。
顔が赤い。
思い出すのは、
昨夜のことばかり。
告白。
口づけ。
そして。
“恋人”。
「む、無理……」
枕へ顔を埋めたくなる。
だが。
現実は待ってくれない。
侍女たちは朝から妙にそわそわしていた。
「ガブリエラ様、
本日は随分お綺麗ですね!」
「えっ」
「肌艶も素晴らしいです!」
「えっ!?」
完全に何か察している。
ガブリエラは羞恥で死にそうだった。
そんな状態のまま、
食堂へ向かう。
扉の前で一度深呼吸。
落ち着け。
普通にするだけ。
そう思いながら扉を開けた瞬間。
「おはよ、ガブリエラ」
ノクスがいた。
しかも。
ものすごく自然に笑っている。
ガブリエラの心臓が跳ねた。
「っ!!」
反射的に扉を閉める。
逃亡。
だが。
即座に扉が開いた。
ノクスが片手で押さえている。
「何で逃げるんだよ」
「む、無理だから!!」
「何が」
「全部!!」
ノクスが吹き出した。
楽しそう。
絶対楽しんでる。
ガブリエラは顔を真っ赤にしたまま睨む。
すると。
ノクスがふいに近づいた。
「っ」
距離が近い。
赤い瞳が覗き込んでくる。
そして。
さらっと言った。
「可愛い」
ガブリエラの思考が停止した。
「な……っ」
朝から何言ってるの!?
ノクスは完全に余裕だった。
むしろ、
恋人になってから遠慮が消えている。
ガブリエラが混乱していると、
背後から咳払いが聞こえた。
「朝から騒がしいな」
レオンハルトだった。
ガブリエラは勢いよく振り返る。
「レオン!!」
なぜか安心する。
だが。
次の瞬間。
レオンハルトの視線が、
ノクスの腕へ向く。
今。
自然にガブリエラの腰を抱いていた。
「……離せ」
低い声。
ノクスが笑う。
「嫌だ」
「朝食くらい普通に食べろ」
「恋人なんだから問題ねぇだろ」
ガブリエラは再び固まった。
ノクス、
容赦がない。
レオンハルトのこめかみに青筋が浮く。
「わざと言ってるな?」
「当然」
火花が散る。
ガブリエラは慌てて止めた。
「お願いだから朝から喧嘩しないで!?」
その時。
食堂の奥から、
侍女たちの黄色い悲鳴が上がった。
「きゃーーー!!」
「本当に恋人になってる!!」
「尊い……!!」
聞かれてた。
ガブリエラは絶望した。
ノクスは笑いを堪えている。
レオンハルトは頭を抱えた。
そして。
ガブリエラだけが、
真っ赤なまま固まっていた。




