表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/112

第八十章『恋人』

「……もう絶対離さねぇ」


ノクスの低い声が、

胸の奥へ深く落ちてくる。


ガブリエラの心臓は、

まだ激しく鳴っていた。


唇が熱い。


さっきの口づけの感触が、

離れてくれない。


ノクスはそんな彼女を見て、

満足そうに笑った。


「顔真っ赤」


「だ、誰のせいだと思ってるの……!」


「俺」


即答だった。


ガブリエラは羞恥で顔を覆う。


周囲では騎士たちが勝利に沸いていた。


だが。


何人かはこちらを見ていた。


特に若い騎士たち。


「あれって……」


「もしかして……」


「いや完全に……」


ガブリエラの顔がさらに赤くなる。


「み、見られてる!!」


ノクスは気にした様子もない。


むしろ。


ガブリエラの腰を抱く腕を、

さらに強くした。


「別にいいだろ」


「よくない!!」


「恋人なんだから」


世界が止まった。


ガブリエラが固まる。


「……え」


ノクスが目を瞬く。


「違ぇの?」


「ち、違わないけど……!」


口に出した瞬間、

羞恥が爆発した。


ノクスの顔が一気に緩む。


「ははっ」


珍しく、

心から嬉しそうに笑っていた。


ガブリエラの胸がきゅっとなる。


こんな顔するんだ。


いつも余裕そうな彼が。


自分の言葉一つで、

こんなに嬉しそうに。


ノクスは額を寄せる。


「じゃあ正式に決定な」


「正式って何……」


「お前は俺の」


「言わなくていい!!」


慌てて口を塞ぐ。


ノクスがまた笑った。


だが。


その時だった。


「……随分楽しそうだな」


静かな声。


二人が同時に振り向く。


そこに立っていたのは、

レオンハルトだった。


沈黙。


周囲の騎士たちが、

一斉に気まずそうな顔になる。


ガブリエラの顔が青ざめた。


「レ、レオン……」


レオンハルトは二人を見る。


ノクスの腕。


ガブリエラの赤い顔。


そして。


僅かに腫れた唇。


全部見て、

理解したらしい。


蒼い瞳が細められる。


怖い。


だが。


レオンハルトは怒鳴らなかった。


しばらく沈黙したあと、

小さく息を吐く。


「……勝てないな」


その声は、

少し寂しそうだった。


ガブリエラの胸が痛む。


レオンハルトは優しかった。


何度も助けてくれた。


大切な人だ。


だからこそ、

傷つけたくない。


ガブリエラが言葉を探していると。


レオンハルトはふっと笑った。


「そんな顔をするな」


彼はガブリエラの頭を軽く撫でる。


優しい手。


「お前が幸せなら、

それでいい」


その言葉に、

ガブリエラの目が揺れた。


ノクスも何も言わない。


レオンハルトは少しだけ視線を逸らす。


「……ただ」


蒼い瞳がノクスを捉える。


「泣かせたら殺す」


笑顔だった。


でも怖い。


ノクスが鼻で笑う。


「上等」


また空気が危険になる。


ガブリエラは慌てて二人の間へ入った。


「喧嘩しないで!!」


すると。


二人とも同時に笑った。


その空気に、

騎士たちが安堵する。


雪はまだ降っていた。


けれど。


ガブリエラの胸の中は、

不思議なくらい温かかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ