第七十九章『口づけと誓い』
世界が白く染まった。
轟音。
眩い光。
怪物の絶叫が夜空を裂く。
赤い核が、
ゆっくりと崩れていった。
亀裂。
崩壊。
そして。
黒い身体そのものが、
塵のように消えていく。
騎士たちが息を呑む。
「消えてる……」
「倒したのか……!?」
最後に、
怪物は悲鳴のような声を上げた。
そして。
完全に消滅する。
静寂。
雪だけが、
静かに降っていた。
――終わった。
ガブリエラの身体から、
一気に力が抜ける。
「ぁ……」
視界が揺れた。
魔力切れ。
落ちる。
そう思った瞬間。
強い腕が、
彼女を抱き止めた。
「おっと」
ノクスだった。
黒い翼を広げ、
空中でガブリエラを支えている。
赤い瞳が覗き込む。
「大丈夫か」
ガブリエラは小さく笑う。
「……たぶん」
声に力が入らない。
ノクスは苦笑した。
「無茶しすぎ」
「ノクスに言われたくない」
「確かに」
二人とも少し笑った。
そのまま、
ゆっくり地上へ降り立つ。
騎士たちが歓声を上げた。
「勝った!!」
「やったぞ!!」
だが。
ガブリエラの耳には、
あまり入ってこない。
ノクスが近すぎるから。
抱きかかえられたまま。
しかも。
彼の視線が、
ずっとこちらへ向いている。
熱い。
ガブリエラの胸が騒ぐ。
ノクスは静かに言った。
「……返事」
ガブリエラが瞬く。
「え?」
ノクスは少し困ったように笑う。
「さっきの」
愛してる。
そう言われた。
思い出した瞬間、
ガブリエラの顔が熱くなる。
ノクスは真剣だった。
逃げ道を与えないくらい、
真っ直ぐ見つめてくる。
ガブリエラの胸が苦しくなる。
怖い。
でも。
もう気づいている。
自分が、
誰を一番求めているのか。
ノクスが傷つくと、
苦しくなる。
失うと思うと、
涙が出る。
彼の隣にいると、
安心する。
いつの間にか。
こんなにも大きな存在になっていた。
ガブリエラはそっと、
ノクスの服を掴む。
赤い瞳が揺れた。
「……私も」
声が震える。
恥ずかしい。
でも。
ちゃんと伝えたかった。
「ノクスが好き」
その瞬間。
ノクスの表情が止まった。
珍しく、
本気で驚いている。
ガブリエラはさらに顔を赤くする。
「だ、だから……」
言い終わる前に。
ぐいっと引き寄せられた。
「っ」
ノクスの額がぶつかる。
近い。
近すぎる。
赤い瞳が、
熱を帯びて揺れていた。
「……やばい」
掠れた声。
ガブリエラの心臓が跳ねる。
ノクスは苦しそうに笑った。
「嬉しすぎて、
今なら世界壊せそう」
「壊さないで!?」
思わず突っ込むと、
ノクスが吹き出した。
そして。
次の瞬間。
そっと。
優しく。
唇へ口づけが落ちた。
触れるだけの、
甘いキス。
ガブリエラの頭が真っ白になる。
雪が降る。
静かな夜。
ノクスは唇を離したあとも、
ガブリエラを見つめていた。
赤い瞳が、
優しく細められる。
「……もう絶対離さねぇ」
低い声。
まるで誓いみたいだった。




