第七十八章『二人の力』
迫り来る黒い口。
巨大な牙。
飲み込まれれば、
終わりだった。
だが。
ノクスは笑っていた。
恐怖なんて感じさせない顔で。
「――だから、
一緒にぶっ壊すぞ」
ガブリエラの胸が熱くなる。
怖い。
なのに。
隣にノクスがいるだけで、
前へ進める気がした。
ガブリエラは涙を拭う。
そして。
真っ直ぐ彼を見た。
「……うん」
その返事に、
ノクスの赤い瞳が優しく細められる。
次の瞬間。
二人の魔力が重なった。
黒炎。
銀黒の光。
相反するはずの力が、
空中で混ざり合っていく。
騎士たちが驚愕した。
「魔力融合……!?」
「ありえない……!」
普通なら、
反発して暴走する。
だが。
二人の力は自然に絡み合っていた。
まるで最初から、
一つだったみたいに。
怪物が咆哮する。
黒い泥が津波のように襲いかかる。
ノクスがガブリエラの腰を抱いた。
「落ちんなよ」
「そっちこそ!」
二人は同時に飛び出す。
空を裂くように。
黒と銀の光が夜空を駆けた。
怪物の攻撃をすり抜ける。
ノクスの黒炎が道を開き、
ガブリエラの光が泥を浄化していく。
赤い核が近づく。
脈打っている。
まるで心臓みたいに。
ガブリエラの脳裏へ、
再び記憶が流れ込んだ。
五百年前。
巫女は一人で戦っていた。
誰にも頼れず。
泣きながら。
命を削って封印した。
でも。
今は違う。
ガブリエラは一人じゃない。
「ノクス!!」
「おう!!」
二人の力が重なる。
黒炎が核を焼き、
銀黒の光が封印陣を描く。
怪物が絶叫した。
空が震える。
地面が割れる。
それでも。
二人は止まらない。
ノクスが笑う。
「いい感じじゃねぇか!」
「こんな状況で楽しそうにしないで!」
「お前と一緒だからな」
さらっと言われて、
ガブリエラの顔が熱くなる。
こんな戦闘中なのに。
でも。
少しだけ笑ってしまった。
その瞬間。
核へ亀裂が入る。
怪物が狂ったように暴れ始めた。
「ガアアアアアアア!!」
黒い衝撃波。
ノクスが即座にガブリエラを抱き寄せる。
爆風。
熱風。
だが。
彼は絶対にガブリエラを離さない。
ガブリエラはその胸へしがみつく。
鼓動が聞こえる。
力強い。
生きてる。
そのことが、
どうしようもなく嬉しかった。
ノクスが低く言う。
「最後だ」
ガブリエラは頷く。
二人は同時に手を伸ばした。
核へ向かって。
「「――壊れろ!!」」
黒炎と銀光が、
夜空を埋め尽くした。




