第七十七章『愛しい人』
「ノクス!!」
ガブリエラの叫びが、
夜空へ響く。
黒い翼。
燃え上がる黒炎。
ノクスは一直線に怪物へ突っ込んでいった。
騎士たちが息を呑む。
「無茶だ!!」
「核へ直接……!」
怪物が咆哮する。
巨大な腕が、
ノクスを叩き潰そうと振り下ろされた。
だが。
ノクスは避けない。
赤い瞳が鋭く光る。
「邪魔」
次の瞬間。
黒炎が爆発した。
轟音。
怪物の腕が消し飛ぶ。
その勢いのまま、
ノクスは怪物の胸部へ到達した。
赤い核。
脈打つ光。
ノクスが手を伸ばす。
だが。
その瞬間。
怪物の身体から、
無数の黒い手が伸びた。
「っ!」
ノクスの腕を掴む。
足を絡め取る。
黒い泥が、
彼を飲み込もうとした。
ガブリエラの顔色が変わる。
「駄目!!」
ノクスの魔力が荒れ狂う。
黒炎が暴走しかけていた。
セレフィナの言葉が蘇る。
――最も愛する者を。
嫌だ。
そんな未来。
絶対嫌。
ガブリエラは走った。
レオンハルトが止める声も聞こえない。
ただ。
ノクスを失いたくなかった。
銀黒の光が溢れる。
翼が広がる。
ガブリエラは空へ飛び上がった。
怪物がこちらを見る。
黒い咆哮。
だが。
怖くなかった。
ノクスがいるから。
「離して!!」
銀黒の力が炸裂する。
光が黒い泥を切り裂いた。
ノクスを拘束していた手が砕け散る。
ノクスが目を見開いた。
「ガブリエラ!?」
彼女はそのまま、
ノクスへ抱きつくように飛び込む。
空中。
強く抱き締めた。
「っ……」
ノクスの身体が固まる。
ガブリエラは震える声で言う。
「一人で行かないで……!」
涙が滲む。
怖かった。
本当に。
失うかもしれないと思った瞬間、
息ができなくなった。
ノクスはしばらく何も言わなかった。
やがて。
苦しそうに笑う。
「……反則」
「え?」
ノクスの腕が、
ガブリエラを強く抱き返した。
熱い。
黒炎の熱。
でも。
その抱擁は優しかった。
「そんな顔されたら、
死ねなくなる」
ガブリエラの胸がいっぱいになる。
ノクスは額を寄せた。
至近距離。
赤い瞳が揺れている。
「なぁ、
ガブリエラ」
低い声。
真剣だった。
「俺、
多分もう無理」
「……?」
ノクスは苦笑する。
そして。
はっきり言った。
「お前のこと、
めちゃくちゃ愛してる」
世界が止まった気がした。
ガブリエラの呼吸が止まる。
心臓が激しく鳴る。
ノクスはそんな彼女を見て、
少しだけ照れたように笑った。
「今、
返事なくてもいい」
「でも」
彼の指が、
そっとガブリエラの涙を拭う。
「絶対、
他の奴には渡さねぇ」
その瞬間。
怪物が再び咆哮した。
巨大な黒い口が、
二人へ迫る。
だが。
ノクスは笑った。
「――だから、
一緒にぶっ壊すぞ」




