第七十四章『初めての口づけ』
「知らない!!」
ガブリエラは顔を真っ赤にしたまま、
ノクスの腕から逃れようともがいた。
だが。
ノクスは簡単に離してくれない。
「暴れるなって」
「だって二人とも変!!」
「今更だな」
レオンハルトが冷静に返す。
「そこ認めるの!?」
ガブリエラはもう限界だった。
心臓が持たない。
ノクスは楽しそうに笑っているが、
その赤い瞳には熱があった。
レオンハルトも、
普段よりずっと感情が出ている。
二人とも本気だ。
それが分かるからこそ、
余計に逃げたくなる。
その時。
突然、
ガブリエラの胸元が淡く光った。
「え……?」
全員の視線が集まる。
セレフィナから渡された水晶だった。
銀色の光が脈打っている。
しかも。
どんどん強く。
レオンハルトが表情を変えた。
「魔力反応……?」
ノクスも眉をひそめる。
次の瞬間。
水晶の中から、
声が響いた。
『逃げて』
幼い少女の声。
ガブリエラの顔色が変わる。
『来る』
同時に。
皇宮全体が大きく揺れた。
轟音。
窓ガラスが震える。
外から悲鳴が上がった。
「きゃあああっ!!」
「魔物だ!!」
空気が一変する。
レオンハルトが即座に剣へ手をかけた。
「外だ!」
ノクスもガブリエラを離す。
三人は窓の外を見る。
そこには。
黒い裂け目が空へ広がっていた。
空間が裂けている。
そして。
その中から、
巨大な異形が這い出してきた。
人の形をしている。
だが。
全身が黒い泥のように崩れていた。
騎士たちが次々吹き飛ばされる。
「なんだあれ……!」
「魔物じゃない!」
ガブリエラの胸がざわつく。
知っている。
あれを。
記憶の奥底が、
激しく疼いた。
『――滅びの獣』
誰かの声が頭へ響く。
ガブリエラは息を呑んだ。
その瞬間。
異形がこちらを向く。
真っ黒な顔。
目もない。
なのに。
はっきり分かった。
“見られた”。
次の瞬間。
異形が咆哮した。
空気が震える。
ガブリエラの身体から、
銀黒の光が溢れ出した。
暴走するように。
レオンハルトが驚く。
「ガブリエラ!?」
頭痛。
苦しい。
視界へ大量の記憶が流れ込む。
燃える世界。
泣いている人々。
そして。
血塗れの巫女。
『封じて!!』
ガブリエラの膝が崩れる。
倒れる寸前。
ノクスが抱き止めた。
「おい!!」
ガブリエラは震える唇で呟く。
「思い出した……」
二人が息を呑む。
ガブリエラは恐怖で顔を青ざめさせながら、
空を見る。
「……あれ、
五百年前の怪物だ」
沈黙。
外では、
異形が再び咆哮していた。
そして。
その黒い身体の中心に、
赤い光が灯る。
まるで。
“目覚めた”みたいに。




