第六十八章『予言』
「それが、
あなたの“選択”ですか」
セレフィナの声は静かだった。
だが。
その言葉には、
妙な重みがあった。
ガブリエラの胸がざわつく。
「……どういう意味?」
セレフィナはすぐには答えない。
ただ、
金色の瞳でガブリエラを見つめていた。
その視線が、
まるで未来まで見透かしているみたいで落ち着かない。
ノクスが苛立ったように舌打ちする。
「質問に答えろ」
セレフィナはようやく視線を外した。
「近いうちに、
大きな災厄が来ます」
庭の空気が変わる。
騎士たちの顔が強張った。
レオンハルトが低く問う。
「根拠は」
セレフィナは空を見る。
白い雪雲。
そして。
ぽつりと呟いた。
「空が泣いている」
誰も意味が分からなかった。
だが。
ガブリエラだけは、
胸の奥が冷える。
何故か。
その言葉を、
知っている気がした。
セレフィナは続ける。
「神を失った世界は不安定です」
「均衡が崩れ始めている」
ノクスが眉をひそめる。
「……偽神騒ぎのせいか」
「それだけではありません」
セレフィナは静かに首を振った。
そして。
真っ直ぐガブリエラを見る。
「“本物”が目覚めます」
その瞬間。
ガブリエラの頭へ、
激しい痛みが走った。
『逃げて』
誰かの声。
幼い少女の声。
崩れる神殿。
黒い海。
巨大な“何か”。
「っ……!」
ふらついた身体を、
ノクスが支える。
「またか」
ガブリエラは額を押さえる。
息が苦しい。
セレフィナはそんな彼女を見つめ、
どこか悲しそうに目を伏せた。
「まだ思い出せないのですね」
レオンハルトが鋭く反応する。
「何を知っている」
セレフィナは少し黙る。
やがて、
静かに言った。
「五百年前、
世界は一度滅びかけました」
騎士たちがざわめく。
古代大戦。
神話として残る時代。
セレフィナは続けた。
「その時、
世界を封じたのが“初代巫女”」
ガブリエラの心臓が跳ねる。
巫女。
セレフィナはゆっくり、
ガブリエラへ手を伸ばした。
「あなたはその末裔です」
静寂。
誰も言葉を失った。
レオンハルトも。
ノクスも。
ガブリエラ自身さえ。
セレフィナの金色の瞳が、
静かに細められる。
「そして、
あなたはいずれ選ばなければならない」
風が吹く。
白い髪が揺れた。
「世界か」
「愛する人か」
その瞬間。
ノクスとレオンハルトの空気が変わった。
ガブリエラの呼吸も止まる。
セレフィナは微笑む。
だが。
その笑顔は、
あまりにも悲しかった。
「どちらかしか、
救えません」
雪が降り始める。
静かな。
冷たい雪だった。




