第六十六章『聖女セレフィナ』
『やっと見つけた』
冷たい声が、
頭の奥へ直接響く。
ガブリエラは頭を押さえた。
視界が歪む。
白い神殿。
赤い血。
そして。
長い銀髪の女。
微笑んでいる。
なのに、
その笑顔は妙に恐ろしかった。
「っ……ぁ……」
ノクスがガブリエラを抱き支える。
「しっかりしろ」
低い声。
その温度で、
少しだけ意識が戻る。
レオンハルトも険しい顔で覗き込んだ。
「何が見えた」
ガブリエラは荒い息を整える。
胸騒ぎが酷い。
「……分からない」
でも。
一つだけ分かる。
“セレフィナ”は危険だ。
それも、
今までとは違う種類の。
騎士が不安そうに続ける。
「彼女は突然、
南部の大神殿へ現れたそうです」
「奇跡を起こしたと……」
ノクスが鼻で笑う。
「胡散臭ぇ」
レオンハルトは顎へ手を当てる。
「神殿側の反応は」
「既に“真なる聖女”として崇め始めています」
ガブリエラの背筋が冷えた。
真なる聖女。
その言葉。
まるで。
“偽物”がいると言っているみたいだ。
レオンハルトも同じことを思ったらしい。
視線がガブリエラへ向く。
ノクスの空気が冷えた。
「……気に入らねぇな」
ガブリエラはゆっくり息を吐く。
頭痛はまだ残っている。
でも。
妙にはっきりしていた。
セレフィナは、
自分を探している。
その確信だけがある。
その時。
突然、
窓の外が騒がしくなった。
悲鳴。
ざわめき。
騎士が顔色を変える。
「外が……!」
全員が窓を見る。
すると。
皇宮の上空に、
巨大な白い鳥が現れていた。
純白の翼。
神々しい光。
まるで神話の生き物。
人々が騒然となる。
「聖獣……!?」
鳥は空中を旋回し、
ゆっくり皇宮の庭へ降り立った。
その背に。
一人の女が立っている。
銀色の長い髪。
白い神官服。
そして。
透き通るような金色の瞳。
ガブリエラの呼吸が止まった。
記憶の中の女。
セレフィナ。
彼女は微笑んでいた。
美しい。
だが。
背筋が凍るほど冷たい笑み。
皇宮中が静まり返る。
セレフィナは真っ直ぐ、
ガブリエラを見上げた。
そして。
優雅に微笑む。
『お久しぶりですね』
頭の奥へ、
直接声が響く。
ガブリエラの瞳が揺れる。
知らない。
でも。
知っている。
セレフィナはゆっくり口を開いた。
「――神殺しの巫女」
空気が凍った。
騎士たちが息を呑む。
レオンハルトの表情が険しくなる。
ノクスは完全に殺気を滲ませていた。
だが。
セレフィナは全く怯えない。
むしろ。
楽しそうだった。
彼女はガブリエラだけを見つめる。
「会いたかったです」
その声に。
ガブリエラの本能が、
危険を叫んでいた。




