第六十四章『熱』
部屋の空気が熱い。
暖炉のせいじゃない。
目の前の二人のせいだ。
ガブリエラは完全に固まっていた。
レオンハルトは静かにこちらを見ている。
ノクスは挑発的に笑っている。
逃げ場がない。
「……えっと」
声が裏返った。
二人の視線が同時に向く。
心臓が死にそうだった。
ノクスが先に口を開く。
「顔真っ赤」
「う、うるさい!」
レオンハルトまで小さく笑った。
「分かりやすいな」
「誰のせいだと思ってるの!?」
ガブリエラは布団を頭まで被りたくなった。
だが。
ノクスは逃がしてくれない。
ベッドへ腰掛けたまま、
じっとこちらを見ている。
赤い瞳。
熱を帯びていて、
妙に落ち着かない。
「で?」
「……な、なに」
「どっちが好きなんだ?」
ガブリエラの思考が吹き飛んだ。
「はぁ!?」
レオンハルトが眉をひそめる。
「聞き方が雑すぎる」
「でも気になるだろ」
「……否定はしない」
なんで乗るの!?
ガブリエラは枕を抱き締めた。
心臓が暴走している。
好き。
その言葉だけで、
頭が真っ白になる。
確かに。
二人とも大切だ。
ノクスには何度も救われた。
隣にいると安心する。
でもレオンハルトは、
失ったはずの過去で。
後悔も。
想い出も。
全部まだ胸に残っている。
答えなんて、
すぐ出せるわけがない。
ガブリエラが唸っていると、
ノクスが少しだけ真面目な顔になった。
「……別に今答えろとは言わねぇ」
ガブリエラが顔を上げる。
ノクスはそっぽを向きながら言う。
「ただ、
他の奴に取られんのは嫌だ」
その言葉に、
胸がドクンと鳴った。
レオンハルトも静かに口を開く。
「俺もだ」
真っ直ぐすぎる声。
逃げられない。
ガブリエラは顔を覆った。
「むり……」
「何が」
「心臓が!!」
ノクスが吹き出す。
レオンハルトまで肩を震わせた。
「……可愛いな」
「っ!!?」
今、
絶対言った。
ガブリエラの顔がさらに熱くなる。
ノクスは笑いながら、
ガブリエラの頭を軽く撫でた。
「無理すんな」
優しい手。
そのまま額へ軽く触れる。
「熱上がるぞ」
「誰のせい……」
呟くと、
ノクスは楽しそうに笑った。
その様子を見て、
レオンハルトが少し目を細める。
嫉妬。
でも。
どこか安心したような顔でもあった。
彼は静かに立ち上がる。
「今日は休め」
ガブリエラが見上げる。
レオンハルトは少し迷ってから、
そっと彼女の頬へ触れた。
指先だけ。
優しく。
「おやすみ、ガブリエラ」
低い声。
近い。
ガブリエラの呼吸が止まる。
そのままレオンハルトは部屋を出ていった。
扉が閉まる。
静寂。
だが。
まだノクスがいる。
ガブリエラが恐る恐る振り返ると、
ノクスは頬杖をついてこちらを見ていた。
「……何」
「いや」
赤い瞳が細められる。
「取られたくねぇなって」
また心臓が暴れた。
ガブリエラは枕を投げた。
ノクスは笑いながら受け止める。
「暴力反対」
「うるさい!!」
久しぶりに、
部屋へ明るい笑い声が響いた。




