第六十三章『嫉妬』
部屋の空気が静かに揺れる。
暖炉の火だけが、
ぱちぱちと音を立てていた。
ガブリエラは息を呑む。
レオンハルトの手が、
まだ髪へ触れている。
優しい。
でも。
どこか熱を帯びていた。
「……あいつに触れられてるの見て、
正直かなり腹が立った」
低い声。
ガブリエラの心臓が大きく跳ねる。
「え……」
何を言えばいいのか分からない。
レオンハルトは苦笑した。
「困らせたいわけじゃない」
そう言いながらも、
視線は逸らさない。
真っ直ぐだった。
ガブリエラは胸元を押さえる。
鼓動がうるさい。
昔の婚約者。
でも今は、
それだけじゃない。
死別。
後悔。
再会。
たくさんの感情が、
二人の間には積み重なっている。
レオンハルトが静かに言う。
「……お前を失った時、
もう二度と会えないと思った」
ガブリエラの瞳が揺れる。
「俺は何も守れなかった」
悔しそうな声。
拳が強く握られている。
「だから今度こそ、
絶対失いたくない」
胸が痛いほど熱くなる。
ガブリエラは何か言おうとした。
その時。
ガチャ。
扉が開いた。
「おいガブリエラ、
薬持っ――」
ノクスだった。
沈黙。
空気が凍る。
ノクスの赤い瞳が、
レオンハルトの手を見る。
ガブリエラの髪へ触れている手を。
ぴくりと、
空気が歪んだ。
「……何してんだお前」
低い声。
怖い。
レオンハルトは手を離さない。
むしろ静かに見返す。
「見ての通りだ」
「は?」
ガブリエラは一気に青ざめた。
まずい。
ものすごくまずい。
ノクスはゆっくり部屋へ入る。
手には薬瓶。
でも。
明らかに怒っている。
「病人に色目使うとか最低だな」
レオンハルトの眉が動く。
「誰のせいで倒れたと思ってる」
「俺はちゃんと助けてたが?」
「危険へ突っ込ませていただろ」
「お前よりマシ」
火花。
本当に見えそうだった。
ガブリエラは慌てて起き上がる。
「ちょっと待って!?
なんで喧嘩になるの!?」
ノクスが即答する。
「こいつがムカつくから」
レオンハルトも即答した。
「同感だ」
相性が悪すぎる。
ガブリエラは頭を抱えた。
ノクスはそのままベッドへ近づく。
そして。
当然のように、
ガブリエラの額へ手を当てた。
「熱は」
ガブリエラが固まる。
近い。
距離が。
レオンハルトの空気が冷えた。
「……お前も大概だな」
ノクスは鼻で笑う。
「心配してるだけだ」
「随分親密に見えるが」
「嫉妬か?」
沈黙。
ガブリエラの顔が真っ赤になる。
今、
嫉妬って言った?
レオンハルトの目が細まる。
「……否定はしない」
空気が止まった。
ガブリエラの思考も止まる。
え?
今、
何て?
ノクスも少し驚いた顔をした。
だが次の瞬間、
面白そうに笑う。
「へぇ」
レオンハルトは視線を逸らさない。
「お前は違うのか」
挑発。
ノクスの赤い瞳が細くなる。
そして。
ゆっくりガブリエラを見る。
その視線だけで、
胸が熱くなる。
ノクスは低く笑った。
「……だったらどうする」
ガブリエラは完全に固まった。
ちょっと待って。
なんでこうなったの!?




