第六十二章『帰還』
帝都へ戻った頃には、
雪もすっかり止んでいた。
黒竜の背へ乗り、
帰還した一行を見て、
皇宮の人々は騒然となる。
しかも。
ガブリエラたちの後ろには、
保護された子供たちまでいた。
神殿の闇。
実験体。
偽神。
隠されていた真実が、
少しずつ帝都へ広がっていく。
だが。
今のガブリエラにとって、
そんなことを考える余裕はなかった。
「……っ」
足元がふらつく。
魔力の消耗が激しい。
神性まで酷使した反動で、
身体が鉛みたいに重かった。
すると。
突然、
身体が浮く。
「え」
気づけば、
ノクスに横抱きされていた。
いわゆる、
お姫様抱っこである。
周囲の騎士たちが一斉に固まった。
ガブリエラの顔が真っ赤になる。
「な、ななな何してるの!?」
ノクスは平然としていた。
「歩けねぇだろ」
「歩ける!!」
「三歩で倒れそうだったが?」
図星だった。
言葉に詰まる。
ノクスはそのまま歩き出す。
ガブリエラは慌てて暴れた。
「お、降ろして!!
みんな見てる!!」
「別にいいだろ」
「よくない!!」
騎士たちが気まずそうに視線を逸らす。
侍女たちは顔を赤くしていた。
その時。
レオンハルトが無言で前へ立つ。
空気が止まった。
蒼い瞳が、
ノクスを真っ直ぐ見る。
「降ろせ」
低い声。
ノクスも睨み返す。
「嫌だね」
「本人が嫌がってる」
「でも離れねぇぞ」
ガブリエラは反射的に、
ノクスの服を掴んでいた。
……恥ずかしい。
でも。
本当に力が入らない。
レオンハルトがその手を見て、
僅かに黙る。
ガブリエラは慌てた。
「ち、違っ……これは……!」
レオンハルトは深くため息を吐いた。
「……部屋まで運べ」
「最初からそうしてる」
「あとで話がある」
「怖ぇな」
二人の空気がまた微妙に張り詰める。
ガブリエラは頭を抱えたくなった。
――――――
その夜。
ガブリエラは自室のベッドで横になっていた。
柔らかい布団。
暖炉の火。
久しぶりの静かな空間。
でも。
眠れない。
今日のことを思い出す。
ノクスの腕。
近かった顔。
レオンハルトの視線。
胸が変に騒ぐ。
「……何これ」
自分でも分からない。
その時。
コンコン。
扉が叩かれた。
「入ってるよ」
すると。
レオンハルトが入ってきた。
軍服ではなく、
珍しくラフな服装だった。
ガブリエラは少し目を瞬く。
「どうしたの?」
レオンハルトはベッド脇へ座る。
少し沈黙。
そして。
ぽつりと呟いた。
「……無事で良かった」
ガブリエラの瞳が揺れる。
その声は、
思っていた以上に優しかった。
レオンハルトは視線を伏せる。
「塔で、
落ちた時」
「心臓が止まるかと思った」
ガブリエラの胸が熱くなる。
彼がこんなふうに、
感情を言葉へするなんて。
昔なら考えられなかった。
レオンハルトは苦笑した。
「情けないな」
「そんなことない」
ガブリエラは小さく笑う。
レオンハルトは静かに彼女を見る。
蒼い瞳。
真っ直ぐで、
優しい。
その視線に、
ガブリエラの鼓動が速くなる。
すると。
レオンハルトがそっと、
ガブリエラの髪へ触れた。
優しい手。
ガブリエラの呼吸が止まる。
「……レオン?」
レオンハルトは少し迷うように目を伏せた。
そして。
低い声で呟く。
「……あいつに触れられてるの見て、
正直かなり腹が立った」
ガブリエラの顔が一気に熱くなる。
え。
それって――。




