第六十章『選択』
塔が悲鳴のような音を立てる。
天井が崩れ、
巨大な瓦礫が次々落下していた。
子供たちは怯えて泣き叫ぶ。
「こわい……!」
「たすけて……!」
レオンハルトが即座に指示を飛ばす。
「先に子供たちを連れて上へ!!
急げ!!」
騎士たちが子供たちを抱えて走り出す。
ノクスも瓦礫を黒炎で吹き飛ばしながら怒鳴った。
「ガブリエラ!!
早くしろ!!」
だが。
ガブリエラは動けなかった。
目の前の少女。
まだ幼い。
七歳くらいだろうか。
痩せた足へ、
黒い鎖が食い込んでいる。
少女は涙を浮かべながら、
必死に笑おうとしていた。
「だいじょうぶ……」
震える声。
「わたし、
ここでいいから……」
その言葉が、
胸を裂く。
ガブリエラは首を横に振った。
「駄目」
少女の前へ膝をつく。
黒い紋章。
呪いの鎖。
神性と魔力を利用した拘束具だ。
雑に壊せば、
少女ごと吹き飛ぶ。
ノクスも気づき、
顔を険しくした。
「……厄介だな」
レオンハルトが周囲を見回す。
崩壊が近い。
時間がない。
ガブリエラは鎖へ触れる。
その瞬間。
大量の苦痛が流れ込んできた。
「っ……!」
少女の悲鳴。
実験。
拘束。
孤独。
ガブリエラの瞳が揺れる。
少女は泣きながら呟いた。
「いたかった……」
ガブリエラの胸が潰れそうになる。
ノクスが低く言う。
「切るなら今しかねぇ」
だが。
失敗すれば。
少女は死ぬ。
レオンハルトがガブリエラを見る。
「お前にしかできない」
静かな声。
信頼。
ガブリエラは息を呑む。
怖い。
もし間違えたら。
でも。
少女の小さな手が、
そっとガブリエラの服を掴んだ。
「……おねえちゃん」
涙で濡れた瞳。
「しにたくない……」
その瞬間。
ガブリエラの迷いが消えた。
「大丈夫」
銀黒の瞳が真っ直ぐ向く。
「絶対助ける」
ガブリエラは両手を鎖へ重ねた。
神性と魔力。
二つの力を、
極限まで細く制御する。
繊細に。
壊さないように。
優しく。
塔がまた大きく揺れた。
轟音。
天井が崩れ落ちる。
ノクスとレオンハルトが同時に防御する。
「急げ!!」
ガブリエラの額から汗が落ちる。
黒い鎖が抵抗する。
呪いが牙を剥く。
頭痛。
吐き気。
それでも。
少女の手は、
ずっとガブリエラを握っていた。
「……っ」
そして。
パキン――。
小さな音。
鎖へ亀裂が入る。
ガブリエラはさらに力を込めた。
「……壊れて!!」
銀黒の光が爆発する。
次の瞬間。
鎖が完全に砕け散った。
少女の瞳が大きく見開かれる。
「……ぁ」
ガブリエラはすぐ少女を抱き上げた。
「行こう!」
だが。
その瞬間。
塔全体が激しく崩れ始めた。
レオンハルトの顔色が変わる。
「まずい!!」
巨大な亀裂。
床が沈む。
逃げ道が崩れていく。
ノクスが舌打ちした。
「間に合わねぇ!!」
その時。
リュシエが突然、
震える声で叫んだ。
『上!!』
全員が顔を上げる。
崩れる天井の向こう。
吹雪の空から、
巨大な“影”が降りてきていた。




