第五十九章『残された子供たち』
崩壊する塔。
雪山が激しく揺れる。
黒い瓦礫が次々と崩れ落ち、
空気は砂煙で濁っていた。
それでも。
ガブリエラの耳には、
少女の言葉だけが残っている。
『まだ中にいる』
実験体の子供たち。
助けを待っている。
ノクスが顔をしかめた。
「時間がねぇぞ」
その通りだった。
塔はもう限界だ。
今にも完全崩壊する。
レオンハルトも険しい表情で言う。
「内部へ戻るのは危険すぎる」
普通なら、
撤退が正しい。
でも。
ガブリエラは塔を見つめた。
苦しみ。
絶望。
助けを求める声。
全部、
ここへ置き去りになっている。
見捨てられなかった。
ガブリエラは迷わず言う。
「行く」
ノクスが即座に眉を吊り上げる。
「却下」
「でも!」
「死にたいのか」
強い口調。
ガブリエラは言葉に詰まる。
すると。
レオンハルトが静かに息を吐いた。
「……俺たちも行く」
ノクスが睨む。
「おい」
「一人で行かせる気か?」
レオンハルトの蒼い瞳は真剣だった。
ノクスは舌打ちする。
「……クソ」
つまり、
結局一緒に来るということだ。
ガブリエラは少し笑った。
「ありがとう」
ノクスが不機嫌そうに顔を逸らす。
「礼は帰ってから言え」
少女も不安そうに呟く。
『地下……
檻の部屋……』
ガブリエラは頷いた。
「案内してくれる?」
少女は小さく、
でもしっかり頷いた。
次の瞬間。
ガブリエラたちは崩壊する塔へ飛び込んだ。
――――――
塔の内部は地獄だった。
床が崩れ、
壁が裂けている。
血の臭い。
薬品の臭い。
そして。
消えない悲鳴の残響。
ガブリエラの胸が痛む。
少女は震えながら奥を指差した。
『こっち』
地下へ続く階段。
だが。
途中で完全に崩れていた。
ノクスが前へ出る。
「下がってろ」
黒炎が炸裂する。
轟音と共に瓦礫が吹き飛んだ。
道ができる。
レオンハルトが苦笑する。
「便利だな」
「お前もやれ」
「無茶言うな」
そんな軽口を叩きながらも、
二人とも緊張していた。
時間がない。
塔がまた激しく揺れる。
天井が崩落した。
ガブリエラは咄嗟に少女を抱き寄せる。
「危ない!」
ノクスが瓦礫を叩き壊す。
「急げ!!」
地下へ辿り着いた瞬間。
ガブリエラは息を呑んだ。
鉄格子。
無数の檻。
そして。
中にいたのは、
痩せ細った子供たちだった。
十人以上いる。
皆、
怯えた目をしている。
騎士たちより小さい。
まだ幼い。
ガブリエラの胸が締め付けられる。
一人の少年が震える声で呟いた。
「……たすけて」
その言葉に、
ガブリエラは即座に檻へ駆け寄った。
「もう大丈夫」
銀黒の力で鍵を壊す。
子供たちは怯えながらも、
必死に外へ出てきた。
少女がその子たちを見る。
金色の瞳が揺れていた。
『みんな……』
どうやら知り合いなのだろう。
子供たちも少女を見て目を見開く。
「リュシエ……?」
少女――リュシエは涙ぐんだ。
『生きてた……』
再会。
それだけで、
涙が出そうになる。
だが。
その時。
塔全体が大きく傾いた。
轟音。
天井が崩れ始める。
レオンハルトが叫ぶ。
「限界だ!!」
ノクスが子供たちを見る。
「全員走れ!!」
だが。
一人だけ動けない子がいた。
小さな女の子。
足へ重い鎖が繋がれている。
ガブリエラの顔色が変わる。
しかも。
その鎖には、
黒い紋章が刻まれていた。
呪縛。
無理に外せば、
爆発する。




