第五十八章『終焉の雪』
男が消えた瞬間。
白い空間が、
完全に崩れ始めた。
空へ亀裂が走る。
床が砕け、
光の粒となって舞い上がった。
少女が不安そうにガブリエラを見上げる。
『ここ……
なくなっちゃうの?』
ガブリエラは優しく頷く。
「うん」
でも。
それは終わりじゃない。
苦しみから、
解放されるということ。
ノクスが周囲を見回し舌打ちした。
「長居すると巻き込まれるぞ」
レオンハルトも頷く。
「急ぐぞ」
崩壊が加速する。
遠くで、
偽神の断末魔が響いていた。
ガブリエラは少女へ手を差し伸べる。
「行こう」
少女は少し迷ったあと、
そっとその手を握った。
小さい。
震えている。
でも。
温かかった。
次の瞬間。
世界が白く弾けた。
――――――
吹雪。
冷たい風。
ガブリエラたちは、
雪山へ戻っていた。
目の前では、
巨大な偽神が崩れ落ちていく。
無数の腕が砕け、
肉塊が灰になって消えていく。
騎士たちが呆然と見上げていた。
「終わったのか……?」
レオンハルトが静かに答える。
「ああ」
その時。
偽神の胸部から、
大量の光が空へ舞い上がった。
魂だ。
苦しみ続けていた人々。
彼らは雪の空へ昇っていく。
まるで。
やっと自由になれたみたいに。
ガブリエラの瞳から涙が零れた。
少女も空を見上げている。
金色の瞳が、
静かに揺れていた。
『……きれい』
その声は、
もう怯えていなかった。
ノクスがガブリエラを見る。
「無茶しすぎだ」
呆れた声。
でも。
どこか安心したようにも聞こえる。
ガブリエラは少し笑った。
「ごめん」
「反省してねぇだろ」
「ちょっとはしてる」
レオンハルトが苦笑する。
「本当に少しだな」
三人の空気が、
少しだけ柔らかくなる。
だが。
その時だった。
ズン――……
低い振動。
全員の表情が変わる。
黒い塔。
廃神殿そのものが、
崩壊を始めていた。
騎士の一人が叫ぶ。
「塔が崩れる!!」
巨大な亀裂。
雪山が揺れる。
ノクスが舌打ちした。
「チッ、面倒だな」
レオンハルトが即座に指示を飛ばす。
「全員退避!!」
騎士たちが走り出す。
だが。
少女だけが、
塔を見上げたまま動かなかった。
ガブリエラが気づく。
「どうしたの?」
少女は小さく呟く。
『まだ……
中にいる』
空気が止まる。
ガブリエラの瞳が揺れた。
「……誰が?」
少女は震える声で答えた。
『実験体の子たち』
その言葉に、
ガブリエラの顔色が変わる。
まだ終わっていない。
まだ、
助けを待っている人がいる。




