第五十四章『核の中の少女』
銀黒の翼が、
吹雪の空を駆ける。
ガブリエラは一直線に、
偽神の胸部――黒い核へ向かった。
偽神が咆哮する。
無数の腕が、
彼女を叩き落とそうと振り下ろされる。
だが。
「させるか」
ノクスの黒炎が炸裂した。
轟音。
巨大な腕が吹き飛ぶ。
再生しようと肉が蠢くが、
今度はレオンハルトの黄金の斬撃がそれを断ち切った。
「前だけ見ろ!!」
ガブリエラは頷く。
胸が熱い。
怖い。
でも。
一人じゃない。
だから進める。
偽神の核が、
脈打つ。
黒い光。
ガブリエラの身体も共鳴するように震えた。
その瞬間。
頭の中へ、
大量の記憶が流れ込んでくる。
暗い研究室。
泣き叫ぶ子供たち。
拘束具。
そして。
祭壇の上で泣いている、
一人の少女。
白銀の髪。
金色の瞳。
ガブリエラの呼吸が止まる。
「……誰」
少女がこちらを見る。
涙で濡れた瞳。
『助けて』
その声に、
胸が締め付けられた。
次の瞬間。
ガブリエラは核の目前へ辿り着く。
黒い結晶。
その奥に。
“少女”がいた。
閉じ込められている。
まるで胎児のように丸まり、
苦しそうに眠っていた。
ローブの人物の声が響く。
『美しいでしょう?』
ガブリエラが振り返る。
いつの間にか、
ローブの人物が空中へ立っていた。
吹雪すら、
彼には届かない。
『彼女こそ、
新たな神の器』
ガブリエラの瞳が揺れる。
「この子を……
使ったの?」
ローブの人物は静かに頷く。
『孤児でした』
その言葉に、
怒りが湧き上がる。
まるで。
価値がないと言うように。
ローブの人物は続ける。
『ですが適性が高かった』
『あなたほどではありませんが』
ガブリエラは拳を握る。
少女の身体には、
無数の傷痕があった。
実験。
失敗。
苦痛。
どれだけ苦しめられたのか、
想像もできない。
ガブリエラの中で、
カサンドラの記憶が疼く。
檻。
孤独。
痛み。
胸が熱くなる。
「もうやめて!!」
叫びと共に、
銀黒の力が爆発した。
ローブの人物が目を細める。
だが。
その瞬間。
偽神の核が激しく脈動する。
少女が苦しそうに目を開いた。
金色の瞳。
虚ろだった。
『……みこ』
ガブリエラの呼吸が止まる。
少女は震える声で続ける。
『ころ……して』
涙が零れていた。
ガブリエラの胸が潰れそうになる。
まただ。
また、
苦しみながら終わりを願っている。
ローブの人物が静かに言う。
『必要な犠牲です』
その言葉に。
ガブリエラの中で、
怒りが限界を超えた。
銀黒の翼が大きく広がる。
吹雪が裂ける。
「違う!!」
ガブリエラの叫びが、
雪山へ響き渡った。
「誰かを犠牲にしていい理由なんてない!!」
その瞬間。
彼女の力が、
偽神の核へ直接流れ込んだ。
少女の瞳が大きく見開かれる。
ローブの人物の表情が、
初めて変わった。
「……何を」
ガブリエラは涙を流しながら、
少女へ手を伸ばす。
「今度は、
絶対助けるから」




