第五十五章『共鳴』
ガブリエラの手が、
黒い核へ触れる。
その瞬間。
世界が反転した。
――――――
気づけば、
そこは白い空間だった。
果てがない。
音もない。
静寂だけが広がっている。
ガブリエラはゆっくり立ち上がった。
「ここ……」
すると。
少し離れた場所に、
少女がいた。
白銀の髪。
痩せ細った身体。
裸足のまま、
怯えるようにこちらを見ている。
金色の瞳。
核の中にいた少女だ。
ガブリエラはゆっくり近づく。
少女はビクリと肩を震わせた。
「大丈夫」
優しく声をかける。
少女は唇を震わせた。
『……こわい』
小さな声。
ガブリエラの胸が締め付けられる。
少女は震えながら続けた。
『みんな、
痛かった』
『いっぱい泣いてた』
空間が揺れる。
周囲へ、
無数の影が浮かび上がった。
実験体たち。
子供。
大人。
皆、
苦しそうに呻いている。
ガブリエラは息を呑む。
この偽神は。
彼らの魂を、
無理矢理繋ぎ合わせて作られている。
少女は涙を流した。
『いやだった』
『でも、
逆らったらみんな死ぬって』
ガブリエラは唇を噛む。
どれだけ怖かったのだろう。
一人で。
ずっと。
少女はガブリエラを見上げる。
『あなたも、
こわい?』
その質問に、
ガブリエラは少しだけ目を見開いた。
怖い。
もちろん怖い。
自分の力も。
未来も。
失うことも。
全部。
でも。
ガブリエラは小さく笑った。
「うん。
すごく怖い」
少女が目を瞬く。
ガブリエラはゆっくり膝をついた。
視線を合わせる。
「でも、
一人じゃないから」
少女の瞳が揺れた。
その時。
白い空間へ、
黒いヒビが入る。
ローブの人物の声が響いた。
『やめなさい』
空間が歪む。
巨大な目玉が、
空から現れた。
『その子は神になる器です』
怒気を孕んだ声。
ガブリエラは少女を庇うように抱き寄せた。
「この子は人間だよ」
『違う』
声が低くなる。
『神こそ、
人を救う唯一の存在だ』
ガブリエラは睨み返す。
「人を苦しめる神なんて、
いらない」
その瞬間。
空間が激しく揺れた。
巨大な目が、
怒りに染まる。
『愚かな……!!』
黒い腕が、
空間から伸びてくる。
少女が悲鳴を上げた。
ガブリエラは咄嗟に抱き締める。
だが。
次の瞬間。
黒炎が腕を焼き払った。
轟音。
ガブリエラが振り返る。
そこにいたのは、
ノクスだった。
「勝手に一人で行くな」
赤い瞳が苛立っている。
その隣には、
レオンハルトもいた。
「迎えに来た」
ガブリエラの瞳が揺れる。
どうしてここへ。
ノクスが呆れたように言う。
「お前の力に無理矢理繋げた」
「かなり危険だったぞ」
レオンハルトが苦笑する。
ガブリエラの胸が熱くなった。
本当に。
一人じゃない。
少女はそんな三人を、
呆然と見ていた。
そして。
ぽつりと呟く。
『……あったかい』
その言葉に、
ガブリエラは優しく笑った。
だが。
空間の奥から、
低い咆哮が響く。
白い空間が、
黒く染まり始めていた。
ローブの人物の声が冷たく響く。
『ならば、
全員まとめて神へ捧げましょう』




