第四十八章『狙われる器』
地下牢から戻った後も、
ガブリエラの頭痛は消えなかった。
ズキズキと、
脳を掻き回されるような痛み。
ベッドへ座っていても、
胸の奥がざわつく。
『あなたこそ、
完全な神になれる』
あの言葉が離れない。
ガブリエラは唇を噛んだ。
自分は何なのだろう。
神の力。
魔王の力。
人間ではない身体。
もし本当に、
“神”になれる存在なら――。
コンコン。
扉が叩かれる。
「入って」
すると、
レオンハルトが入ってきた。
軍服姿のまま。
疲れているはずなのに、
まだ仕事をしていたのだろう。
彼はガブリエラを見るなり眉を寄せた。
「顔色が悪い」
ガブリエラは苦笑する。
「少し頭痛がするだけ」
「少しに見えない」
レオンハルトは静かに近づいた。
昔の彼なら、
こんなふうに細かく気づかなかった。
その変化が、
少しだけくすぐったい。
レオンハルトはベッド脇へ座る。
そして。
そっとガブリエラの額へ手を当てた。
ひんやりした手。
ガブリエラの心臓が跳ねる。
「熱はないな」
近い。
ガブリエラが少し顔を赤くすると、
レオンハルトはふっと笑った。
「……やっといつもの顔になった」
ガブリエラが目を瞬く。
レオンハルトは視線を伏せる。
「地下牢から戻ってから、
ずっと無理してただろ」
見抜かれていた。
ガブリエラは小さく息を吐く。
「……怖いの」
掠れた声。
「もし私が、
本当に“神”になったらって」
レオンハルトの表情が静かに引き締まる。
ガブリエラは続けた。
「みんなを傷つけるかもしれない」
胸が痛い。
ローブの人物の言葉が、
頭から離れない。
自分は器。
神を宿すための。
もし。
もし本当に、
自分が壊れたら。
レオンハルトは静かに口を開いた。
「お前は一人じゃない」
ガブリエラが顔を上げる。
蒼い瞳は真っ直ぐだった。
「もし何かあっても、
俺たちが止める」
その言葉に、
ノクスと同じものを感じる。
信頼。
恐れではなく。
“ガブリエラ自身”を見てくれている。
胸が熱くなった。
レオンハルトは少し苦笑する。
「昔の俺なら、
こんなこと言えなかったな」
ガブリエラが小さく笑う。
「うん」
「ひどいな」
「事実だもん」
レオンハルトも、
つられたように笑った。
穏やかな空気。
でも。
その時だった。
突然。
ガブリエラの身体へ、
激しい痛みが走る。
「っぁ……!」
胸を押さえ、
ベッドへ崩れ落ちる。
レオンハルトの顔色が変わった。
「ガブリエラ!?」
黒い紋章が、
首筋から腕へ広がっていく。
魔力が暴走している。
違う。
これは――。
頭の中へ、
誰かの声が響いた。
『来て』
女の声。
冷たい。
でもどこか悲しい。
ガブリエラの視界へ、
知らない景色が流れ込む。
巨大な塔。
地下祭壇。
そして。
無数の棺。
ガブリエラが息を呑む。
「……っ」
レオンハルトが肩を支える。
「何が見えた」
ガブリエラは震える声で呟いた。
「北の廃神殿……」
その言葉に、
レオンハルトの瞳が揺れる。
帝国北部。
百年前、
封鎖された古代神殿。
神殿ですら禁忌として扱っていた場所。
ガブリエラは青ざめた顔で続けた。
「誰かが……
私を呼んでる」




