第四十七章『金色の瞳』
『神殺しの姫』
低い声が、
地下牢へ響く。
その瞬間。
空気が重く沈んだ。
騎士たちが息を呑む。
ローブの人物は、
黒い霧の中で静かに笑っていた。
顔は見えない。
だが。
金色の瞳だけが、
異様な存在感を放っている。
ガブリエラの背筋を、
冷たいものが走った。
知らない。
絶対に会ったことはない。
なのに。
“危険”だと本能が叫んでいる。
ノクスがガブリエラを背後へ引く。
「下がってろ」
黒い魔力が膨れ上がる。
レオンハルトも剣を抜いた。
「何者だ」
ローブの人物は、
くつくつと笑う。
『哀れですね』
その声には、
どこか愉悦が混じっていた。
『ようやく神を殺したと思ったのに』
金色の瞳が、
細く歪む。
『まだ終わっていないとも知らずに』
ガブリエラの瞳が揺れる。
「……あなたが、
これをやったの?」
床に残る血。
死体。
怪物。
ローブの人物は否定しない。
『失敗作でしたが、
多少は役に立ちました』
騎士たちの顔色が変わる。
まるで。
人間を物扱いするような口ぶり。
ノクスの殺気が強くなる。
「ぶっ殺す」
ローブの人物は笑った。
『怖いですね、
魔王の子』
その呼び方に、
ノクスの空気が変わる。
知っている。
こいつは、
自分たちを知っている。
ガブリエラは唇を噛む。
「何が目的なの」
ローブの人物は、
静かに両腕を広げた。
『救済ですよ』
地下牢が静まり返る。
『神は必要なのです』
狂っている。
ガブリエラはそう思った。
なのに。
その声は妙に落ち着いていた。
まるで。
本気で“正しい”と思っている。
ローブの人物は続ける。
『人は弱い』
『争い、
嫉妬し、
奪い合う』
『だから導く存在が必要だ』
その言葉に、
ガブリエラの胸がざわつく。
昔の神殿と同じ。
だが。
何かが違う。
もっと執着している。
もっと深い。
レオンハルトが冷たく言う。
「そのために人を壊したのか」
ローブの人物は、
一瞬だけ沈黙した。
そして。
静かに答える。
『必要な犠牲です』
その瞬間。
ノクスの魔力が爆発した。
轟音。
黒い影がローブの人物へ襲いかかる。
だが。
斬った感触がない。
ローブの人物は霧となって崩れた。
「チッ!」
ノクスが舌打ちする。
すると。
地下牢全体へ、
笑い声が響いた。
『まだ時ではありません』
『ですが、
あなたは必要です』
金色の瞳が、
真っ直ぐガブリエラを見る。
ガブリエラの身体が強張る。
『神と魔王、
両方を宿す器』
『あなたこそ、
完全な神になれる』
その瞬間。
ガブリエラの中で、
黒い力が暴れた。
「っ……!」
激しい頭痛。
視界が揺れる。
ノクスが即座に支える。
「ガブリエラ!」
ローブの人物が笑う。
『見ていますよ』
『あなたが壊れる瞬間を』
次の瞬間。
黒い霧が一気に弾けた。
轟ッ――!!
地下牢を衝撃が走る。
騎士たちが吹き飛ばされる。
レオンハルトが咄嗟にガブリエラたちを庇った。
やがて。
霧が晴れる。
そこにはもう、
誰もいなかった。
残ったのは。
床へ刻まれた、
新しい血文字だけ。
――“神は再び生まれる”
地下牢が静まり返る。
ノクスの空気は、
殺気で冷え切っていた。
レオンハルトも険しい顔で血文字を見る。
だが。
ガブリエラだけは、
別のことを考えていた。
最後の言葉。
“あなたこそ、
完全な神になれる”
胸の奥がざわつく。
嫌な予感。
まるで。
自分自身が、
誰かの目的になっているような――。




