第四十三章『赦されない存在』
神殿残党の鎮圧後。
帝都は表面上、
少しだけ落ち着きを取り戻していた。
だが。
本当の意味で、
混乱は終わっていない。
神殿を失った人々は、
新しい“救い”を求め始めていた。
そしてその矛先は、
再びガブリエラへ向けられる。
「神殺し」
「魔王の娘」
「災厄」
噂は消えない。
むしろ広がっていた。
神殿が崩壊したことで、
不安になった人々が、
彼女を恐れることで心を保とうとしている。
ガブリエラは皇宮の庭園を歩いていた。
夜だった。
冷たい風が吹く。
静かな噴水の前で立ち止まる。
水面へ映る自分の姿。
黒い紋章。
銀黒の翼。
もう、
以前のガブリエラとは違う。
「……何してんだ」
振り返ると、
ノクスがいた。
外套を羽織り、
いつもの不機嫌そうな顔。
でも。
彼は毎晩のように、
こうして様子を見に来る。
ガブリエラは少し笑った。
「眠れなくて」
ノクスは隣へ立つ。
しばらく沈黙。
噴水の音だけが響く。
やがて。
ガブリエラが小さく呟いた。
「ねぇ」
「ん?」
「もし私が、
本当に危険な存在だったらどうする?」
ノクスが眉を寄せる。
ガブリエラは俯いていた。
「神を殺した力なんて、
普通じゃない」
胸が痛む。
今日も見た。
怯えた目。
子供を隠す母親。
自分を見るだけで震える人々。
ガブリエラは唇を噛む。
「いつか、
私が誰かを傷つけるかもしれない」
ノクスは少し黙った。
そして。
突然、
ガブリエラの額を軽く弾く。
「痛っ」
「バカか」
呆れた声。
ガブリエラが睨む。
「真面目な話してるんだけど」
「俺も真面目だ」
ノクスは赤い瞳を細めた。
「もしお前が暴走したら、
その時は俺が止める」
あまりにも自然に言うから。
ガブリエラは息を呑む。
ノクスは続ける。
「でも、
お前はそんなことしねぇよ」
即答だった。
迷いがない。
ガブリエラの胸が熱くなる。
「なんでそんなふうに言えるの」
ノクスは小さく笑った。
「お前、
誰か傷つけた後の顔するタイプじゃねぇし」
「何それ……」
思わず吹き出しそうになる。
ノクスは肩をすくめた。
「お前は優しすぎる」
その言葉に、
胸が締め付けられる。
優しい。
昔の自分は、
そんなふうに言われたことがなかった。
ガブリエラは視線を逸らす。
「……でも、
みんなはそう思ってない」
ノクスの表情が少し冷えた。
「全員に理解される必要あるか?」
ガブリエラが黙る。
ノクスは静かに続けた。
「俺はお前を知ってる」
赤い瞳が真っ直ぐ向く。
「それで十分だ」
心臓が跳ねる。
近い。
視線が熱い。
ガブリエラの頬が赤くなる。
ノクスは気づいたのか、
少しだけ笑った。
「何赤くなってんだ」
「なってない!」
「なってる」
「うるさい!」
久しぶりに、
自然に笑った気がした。
だが。
その穏やかな空気を壊すように、
遠くで鐘の音が鳴り響く。
異常を知らせる警鐘。
ノクスとガブリエラの表情が変わる。
次の瞬間。
騎士が血相を変えて駆け込んでくる。
「大変です!!」
息を切らした騎士は叫んだ。
「地下牢に拘束していた神殿残党が、
何者かに皆殺しにされました!!」
空気が凍る。
ガブリエラの胸がざわつく。
皆殺し。
それだけじゃない。
騎士は震える声で続けた。
「現場には、
“神は再臨する”という血文字が……!」




