第三十六章『感情という罪』
銀色の光が、
夜空を裂いた。
一直線に。
迷いなく。
神の核へ向かって伸びていく。
巨大な神の肉塊が蠢く。
無数の目が見開かれ、
無数の腕がガブリエラを掴もうとする。
『排除』
『排除』
『排除』
機械のような声。
感情のない叫び。
だが。
ガブリエラは止まらない。
銀色の翼が羽ばたくたび、
神聖力と魔力が空間を切り裂いていく。
ノクスが血を吐きながら笑った。
「……行け」
彼はまだ、
神の巨大な腕を押さえている。
全身が傷だらけだった。
黒い魔力が暴走し、
身体のあちこちが裂けている。
それでも退かない。
レオンハルトもまた、
神殿騎士たちを斬り伏せながら叫ぶ。
「終わらせろ!!」
蒼い瞳は、
真っ直ぐガブリエラだけを見ていた。
彼女は唇を噛む。
みんなが戦っている。
自分のために。
未来のために。
だから。
もう迷わない。
ガブリエラは神の核を見る。
白い少女。
閉じた瞳。
眠るような姿。
苦しそうだった。
ずっと。
永遠に。
壊れながら生き続けていたのだ。
ガブリエラの胸が痛む。
「……あなたも苦しかったんだね」
その瞬間。
神の動きが止まる。
無数の目が、
一斉にガブリエラを見た。
『理解不能』
初めて揺らぎが生まれる。
ガブリエラは涙を浮かべながら微笑んだ。
「感情を消したら、
苦しくなくなると思った?」
銀色の光が優しく揺れる。
「でも違う」
カサンドラが静かに頷く。
『痛いのも、生きてる証』
ガブリエラは神へ手を伸ばす。
「悲しいのも、
愛しいのも、
失うのが怖いのも」
声が震える。
「全部、人だからなんだよ」
神の核の少女が、
僅かに目を開いた。
金色の瞳。
その中には、
深い孤独があった。
『……苦しい』
小さな声。
初めての“感情”。
ガブリエラの涙が零れる。
「うん」
彼女は頷いた。
「私も苦しかった」
ガブリエラはゆっくり近づく。
神の肉塊が崩れ始める。
無数の目が消えていく。
『怖い』
少女の声が震える。
「怖くていい」
『寂しい』
「寂しくていい」
銀色の翼が、
優しく少女を包み込む。
ガブリエラはそっと彼女を抱き締めた。
「一人で頑張らなくていい」
その瞬間。
世界が静止した。
白い光が止まる。
黒い魔力も静まる。
帝都を覆っていた圧力が、
ゆっくり消えていく。
ノクスが目を見開く。
レオンハルトも剣を止めた。
神殿騎士たちが呆然と空を見上げる。
神の少女は、
ガブリエラの胸へ顔を埋めた。
『……あたたかい』
その言葉と同時に。
巨大な神の肉塊が、
光の粒となって崩れ始めた。
アステリオが絶叫する。
「やめろ!!」
彼は狂ったように手を伸ばす。
「神は!! 神は完璧でなければならない!!」
だが。
誰ももう彼を見ていなかった。
神の少女は、
静かに微笑んでいた。
『ありがとう』
その瞬間。
白い門が完全に砕け散る。
轟音。
世界中へ、
暖かな光が広がった。
神聖力でも、
魔力でもない。
ただ優しい光。
帝都の人々が涙を流す。
長い悪夢が、
ようやく終わろうとしていた。
だが。
その時だった。
ガブリエラの身体が、
ゆっくり崩れ落ちる。
銀色の翼が砕ける。
ノクスの顔色が変わった。
「ガブリエラ!!」
レオンハルトも駆け出す。
だが。
ガブリエラは力なく笑った。
「……あれ」
視界がぼやける。
身体の感覚が消えていく。
カサンドラが悲しそうに呟く。
『力を使いすぎた』
ガブリエラの身体から、
白と黒の光が零れ落ちていく。
存在そのものが、
薄れていた。




