第三十五章『神の本体』
それは、
“人”ではなかった。
白い門の奥から現れた存在に、
誰も言葉を失う。
巨大。
あまりにも巨大だった。
空を埋め尽くすほどの白い肉塊。
無数の目。
無数の腕。
絡み合う光の輪。
神聖でありながら、
吐き気を催すほど異形。
帝都の人々が悲鳴を上げる。
神殿騎士たちですら、
恐怖に後退した。
アステリオは震えていた。
「……神」
信仰してきた存在。
だが。
目の前にいるものは、
彼が夢見ていた“救済”ではない。
感情のない、
巨大な怪物だった。
神の無数の目が、
一斉にガブリエラを見る。
『発見』
『神殺し』
『排除』
低い声が、
頭の中へ直接響く。
ガブリエラの身体が震える。
圧倒的な存在感。
見ているだけで、
精神が削られる。
ノクスが歯を食いしばる。
「……気持ち悪ぃな」
その声には、
明確な嫌悪があった。
レオンハルトも剣を握る。
だが分かっている。
あれは人間が届く存在じゃない。
普通なら。
ガブリエラは静かに空を見上げた。
恐怖はある。
でも。
逃げたいとは思わなかった。
カサンドラの手が、
そっと彼女の背へ触れる。
『大丈夫』
ガブリエラは小さく頷く。
「うん」
その瞬間。
銀色の翼が再び広がった。
神が反応する。
『危険』
巨大な腕が、
帝都へ向かって振り下ろされる。
終末。
その一撃だけで、
街ごと消し飛ぶ。
だが。
ノクスが前へ出た。
黒い魔力が爆発する。
「好きにさせるかよ」
巨大な黒翼。
彼の背後で、
黒い門がさらに開く。
そこから溢れ出る魔力は、
もはや災害だった。
魔王の影が静かに笑う。
『面白い』
次の瞬間。
黒い魔力が巨大な腕を受け止めた。
轟音。
空間が歪む。
ノクスの足元が砕ける。
血が飛び散る。
それでも。
彼は退かない。
「っ……ぐ……!!」
ガブリエラの顔色が変わる。
「ノクス!!」
彼は笑う。
苦しそうに。
それでも、
赤い瞳は強かった。
「行け」
その言葉に、
胸が締め付けられる。
レオンハルトもまた前へ出る。
黄金の魔力が剣へ集まる。
「俺たちが止める」
蒼い瞳が真っ直ぐ向く。
「だから終わらせろ」
ガブリエラの呼吸が震える。
昔なら。
きっと泣いていた。
でも今は違う。
彼らがくれた。
立ち向かう勇気を。
ガブリエラは空へ飛び上がる。
銀色の翼が夜空を裂く。
神の無数の目が彼女を追う。
『排除』
大量の光線が放たれる。
だが。
銀色の光が、
それを全て切り裂いた。
神が初めて揺らぐ。
ガブリエラは真っ直ぐ突き進む。
頭の中で、
カサンドラが囁く。
『あそこ』
神の中心。
巨大な肉塊の奥。
そこに、
小さな“核”が見えた。
人間のような形。
白い少女。
閉じられた瞳。
ガブリエラの呼吸が止まる。
「……あれ」
カサンドラが悲しそうに言う。
『昔の神』
ガブリエラは理解した。
神は最初から怪物じゃなかった。
壊れてしまっただけだ。
永遠の中で。
孤独の中で。
感情を失って。
化け物になった。
神の声が響く。
『不要』
『感情は不要』
ガブリエラの瞳に涙が滲む。
「違う」
銀色の光が強くなる。
「苦しいのも、
悲しいのも、
愛しいのも」
彼女は拳を握る。
「全部、生きてるってことだ!!」
その瞬間。
銀色の翼が、
神の核へ向かって一直線に伸びた。




