第三十四章『銀色の翼』
銀色の翼が広がる。
その瞬間、
帝都を覆っていた重圧が変わった。
白でもない。
黒でもない。
もっと静かで、
もっと優しい力。
まるで、
長い夜の終わりを告げる光だった。
人々が空を見上げる。
恐怖に震えていた子供が、
涙を止める。
崩れかけていた建物が、
ゆっくりと静まり始める。
神聖力でも魔力でもない。
“世界そのもの”へ干渉する力。
レオンハルトは呆然と見つめた。
「……綺麗だ」
思わず零れた本音だった。
ノクスもまた、
息を呑んでいた。
ガブリエラの背中。
銀色の翼。
その姿は、
あまりにも遠い。
触れれば消えてしまいそうで。
彼は無意識に拳を握る。
失いたくない。
その感情だけが、
胸の中で強く燃えていた。
ガブリエラは静かに空を見る。
白い門。
その奥にいる“神”。
感情を失い、
人を道具として扱う存在。
そして。
その神を盲信し、
人を壊してきた神殿。
全部、
終わらせなければならない。
カサンドラの声が響く。
『怖い?』
ガブリエラは少しだけ笑った。
「……怖いよ」
本音だった。
力が大きすぎる。
もし制御できなければ、
帝都ごと消し飛ぶかもしれない。
自分自身も、
壊れるかもしれない。
それでも。
『でも行くの?』
ガブリエラは頷いた。
「もう逃げたくないから」
カサンドラが優しく笑う。
『うん』
その瞬間。
銀色の翼が大きく広がった。
轟ッ――!!
空間が震える。
ガブリエラの身体が、
白い門へ向かって浮かび上がる。
神が反応する。
『危険』
『排除』
無数の白い槍が放たれる。
だが。
ガブリエラは止まらない。
銀色の光が、
槍を次々と分解していく。
まるで。
“存在そのもの”を否定するように。
アステリオが絶望した顔で呟く。
「あり得ない……」
神の力が、
消されている。
信じてきた絶対が、
崩壊していく。
レオンハルトが低く言う。
「お前たちは間違えた」
アステリオが振り返る。
蒼い瞳は冷たかった。
「神を信じるために、
人を捨てた」
アステリオは震える。
「違う……!」
だが。
その声には、
もう自信がない。
神が叫ぶ。
『排除!!』
巨大な白い光が、
帝都全体を覆った。
終末のような光景。
ノクスが顔色を変える。
「ガブリエラ!!」
だが。
彼女は静かに目を閉じた。
そして。
そっと両手を重ねる。
「――還れ」
その瞬間。
銀色の光が爆発した。
轟音。
世界が白に染まる。
白い門が軋む。
神の悲鳴が響く。
『ァアアアアアアッ!!』
初めて。
神が苦痛を叫んだ。
帝都が揺れる。
白い門へ、
巨大な亀裂が走る。
アステリオが崩れ落ちる。
「神が……」
彼の信仰が、
完全に壊れた瞬間だった。
だが。
その時。
ガブリエラの身体にも異変が起きる。
「っ……!」
銀色の翼が崩れ始めた。
光が乱れる。
神性と魔力。
二つの力が、
限界を超えている。
ノクスが即座に飛び出した。
「やめろ!!」
レオンハルトも叫ぶ。
「もう十分だ!!」
だが。
ガブリエラは振り返らない。
カサンドラの声が聞こえる。
『もう少し』
ガブリエラは涙を浮かべながら笑った。
「うん……」
まだ終わっていない。
神を完全に終わらせるまで。
その時。
白い門の奥から、
巨大な“本体”が姿を現した。




