表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/54

第二十四章『妹の本性』

「……生きていたのね、お姉様」


その声は甘かった。


だが。


底知れない冷たさが滲んでいた。


ガブリエラの背筋が凍る。


レオンハルトが眉を寄せる。


「セレナ、勝手に入るな」


だがセレナは彼を見なかった。


視線はただ一人、

ガブリエラだけへ向けられている。


まるで。


死んだはずの亡霊を見るように。


ガブリエラは静かに息を吐いた。


「久しぶりね」


セレナが小さく笑う。


「本当に。

……五年ぶりかしら?」


その笑みは美しい。


でも。


ガブリエラは知っている。


その裏にあるものを。


セレナはゆっくり部屋へ入ってくる。


ヒールの音が静かに響く。


「驚いたわ。

だってお姉様、

ちゃんと死んだと思っていたもの」


レオンハルトの空気が変わる。


「……どういう意味だ」


セレナはようやく彼を見る。


「言葉通りですわ」


微笑む。


だが目は笑っていない。


「崖から落ちた人間が、

普通生きていると思います?」


ガブリエラの瞳が揺れる。


崖。


事故。


あの日。


思い出したくない記憶が蘇る。


雨。


ぬかるんだ道。


壊れた馬車。


そして。


背中を押された感覚。


ガブリエラの呼吸が止まる。


「……まさか」


セレナはにこりと笑った。


「思い出した?」


空気が凍る。


レオンハルトがセレナを見る。


その瞳に、

初めて明確な警戒が宿っていた。


「セレナ」


低い声。


「お前、何を言っている」


セレナは肩を竦める。


「だってもう隠す必要ないでしょう?」


その瞬間。


ガブリエラの胸が激しく脈打つ。


セレナはゆっくりと言葉を落とす。


「お姉様は邪魔だったの」


沈黙。


静かな、

狂気を孕んだ声だった。


「全部持っていたから」


ガブリエラは息を呑む。


セレナの瞳には、

長年押し込めていた憎悪が渦巻いていた。


「家族に愛されて、

皇太子殿下にも愛されて、

周囲にも好かれて」


唇が歪む。


「ずっと嫌いだった」


レオンハルトの顔色が変わる。


「……やめろ」


だがセレナは止まらない。


「だから少し壊しただけ」


その笑顔は、

もう人形のようだった。


「なのにお姉様ったら、

全然壊れないんですもの」


ガブリエラの身体が震える。


怖い。


目の前にいるのは、

知っている妹じゃない。


もっと別の何かだ。


セレナは静かに続ける。


「だから神殿に相談したの」


レオンハルトが目を見開く。


「神殿……?」


「ええ」


セレナは笑う。


「“神の器”が必要だって言われていたから」


空気が止まる。


ガブリエラの背筋が冷える。


神の器。


つまり――。


「お前……最初から知っていたのか」


レオンハルトの声が低くなる。


セレナは平然と頷いた。


「もちろん」


「ガブリエラが器だと?」


「ええ」


その瞬間。


レオンハルトの魔力が爆発しかけた。


窓ガラスが震える。


「……貴様」


怒り。


殺気。


初めて見るほど、

感情を露わにしていた。


だがセレナは笑う。


「今さら怒るんですか?」


その声は鋭かった。


「だって殿下、

結局お姉様を見捨てたじゃないですか」


レオンハルトが言葉を失う。


セレナはさらに笑みを深くする。


「私だけが悪いみたいな顔しないでください」


ガブリエラの胸が痛む。


レオンハルトの表情も、

苦痛に歪んでいた。


セレナはゆっくりガブリエラへ近づく。


「でも驚いたわ」


黒翼を見る。


その瞳に、

歪んだ執着が浮かぶ。


「まさかカサンドラの身体へ入るなんて」


ガブリエラの呼吸が止まる。


「……知ってるの?」


「当然でしょう?」


セレナは笑った。


「だってあの身体、

元々“神降ろし”用だもの」


部屋の空気が凍りつく。


レオンハルトが低く呟く。


「……何を言っている」


セレナは彼を見て、

心底楽しそうに笑った。


「殿下って本当に何も知らないんですね」


その瞬間。


扉の外から、

強烈な黒い魔力が溢れた。


ノクスだ。


明らかに怒っている。


セレナも気づいた。


「……あら」


彼女は楽しそうに目を細める。


「魔王の犬までいるなんて」


次の瞬間。


扉が爆音と共に吹き飛んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ