第十五章『神の光』
轟音が森を揺らした。
天から降り注ぐ、
巨大な白銀の光。
それはまるで、
神そのものが地上へ降臨したかのようだった。
ガブリエラは悲鳴を上げる。
「ぁあっ……!!」
熱い。
身体が焼ける。
黒翼が激しく震え、
白い光と黒い魔力がぶつかり合う。
周囲の空間が歪み始めた。
リリスが叫ぶ。
「神性暴走よ!!」
ノクスは即座にガブリエラを抱き寄せる。
だが。
白銀の光が、
彼の腕を焼いた。
ジュッ――。
嫌な音。
黒い服が裂け、
皮膚が焦げる。
ガブリエラは目を見開いた。
「ノクス!!」
しかし彼は離さない。
苦痛に眉を寄せながらも、
強く抱き締めたまま低く言う。
「……大丈夫だ」
全然大丈夫じゃない。
光は魔族であるノクスを拒絶していた。
それでも。
彼は離れない。
ガブリエラの胸が痛む。
どうして。
どうしてそこまで。
すると。
頭の中へ、
また別の記憶が流れ込んだ。
幼いカサンドラ。
神殿の地下。
白い光に包まれながら泣いている。
『いたい……』
その前には、
白衣を着た神官たち。
『耐えろ』
『器を完成させるためだ』
『神の力を定着させろ』
冷たい声。
何度も。
何度も。
カサンドラは実験されていた。
ガブリエラは息を呑む。
「……ひどい」
怒りが込み上げる。
すると。
白銀の光がさらに強まった。
リリスが舌打ちする。
「感情に反応してる!!」
神の力は、
ガブリエラの精神状態と直結している。
怒れば暴走する。
苦しめば暴走する。
このままでは――。
ノクスは彼女の顔を両手で挟んだ。
「俺を見ろ」
赤い瞳。
真っ直ぐな視線。
「呼吸しろ」
「でも……っ」
「いいから」
低く、
落ち着いた声。
ガブリエラは必死に息を整える。
吸って。
吐いて。
ノクスの声だけを聞く。
すると少しずつ、
暴れていた光が弱まっていった。
リリスが安堵の息を漏らす。
「……なんとか抑えた」
だが、
空気はまだ不安定だった。
ガブリエラは力が抜け、
そのままノクスへ寄りかかる。
「ごめん……」
「謝るな」
ノクスは即答した。
「お前のせいじゃない」
その言葉に、
胸が熱くなる。
今までずっと、
全部自分のせいだと思っていた。
義妹に奪われたことも。
捨てられたことも。
死んだことも。
でも。
ノクスだけは、
一度も責めない。
リリスが険しい顔で近づいてくる。
「想像以上ね……」
「そんなに危険なの?」
ガブリエラが尋ねると、
リリスは真剣に頷いた。
「神の力が目覚める速度が異常なの」
彼女は空を見上げる。
さっきまでの光の余韻が、
まだ空気に残っていた。
「今ので神殿にも位置を感知された可能性が高い」
ガブリエラの顔が強張る。
ノクスは静かに言う。
「時間切れか」
「え?」
リリスは苦々しく笑った。
「本当はもっとゆっくり制御を覚えさせたかったけど……無理ね」
彼女はガブリエラを真っ直ぐ見る。
「あなた、
帝都へ行きなさい」
ガブリエラは目を見開く。
「帝都?」
「神殿の情報を探るの」
ノクスが眉を寄せる。
「危険だ」
「でも必要よ」
リリスは続ける。
「神降ろしの儀式がいつ行われるか、
それを知らないと対策できない」
確かにそうだ。
逃げるだけでは終わらない。
神殿は必ず追ってくる。
なら。
先に動くしかない。
ガブリエラは唇を噛む。
帝都。
そこには、
レオンハルトとセレナがいる。
過去そのものの場所。
怖い。
でも――。
逃げたくない。
ガブリエラはゆっくり顔を上げた。
「行く」
ノクスが彼女を見る。
赤い瞳が細められる。
「……本気か」
「うん」
震える声。
それでも、
瞳だけは揺れていなかった。
「もう逃げない」
その言葉に、
ノクスはしばらく黙っていた。
やがて、
小さく笑う。
「いい顔だ」
リリスは肩を竦める。
「決まりね」
彼女は棚から小さな箱を取り出した。
中には、
銀色のイヤリング。
黒い石が埋め込まれている。
「魔力隠蔽の魔道具よ」
ガブリエラは受け取る。
「これを付ければ、
普通の人間程度には魔力を隠せる」
「ありがとう」
リリスはニヤリと笑った。
「その代わり、
死んだら呪うから」
「怖いこと言わないで……」
するとノクスが静かに立ち上がる。
「出発は明日だ」
「そんな早く?」
「神殿が来る前に動く」
確かにその通りだ。
ガブリエラは頷いた。
だがその時。
ノクスの腕から、
ぽたり、と血が落ちた。
ガブリエラは息を呑む。
さっき神の光で焼かれた傷。
まだ治っていない。
「……怪我」
ノクスはちらりと見る。
「大したことない」
「嘘」
ガブリエラは思わず彼の腕を掴んだ。
傷は想像以上に酷かった。
黒く焼け、
皮膚が裂けている。
胸が痛む。
自分を守ったせいだ。
ノクスは少し驚いたように彼女を見る。
ガブリエラは震える声で言った。
「なんで……
こんなになるまで」
すると。
ノクスは静かに笑った。
「守りたいからだろ」
あまりにも自然に言うから。
ガブリエラは言葉を失った。
心臓が、
壊れそうなくらい痛かった。




