表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/54

第十二章『黒翼の覚醒』

森の空気が凍りついた。


夜空の下。


ガブリエラの背から広がる、

巨大な黒い翼。


羽根は闇そのもののように美しく、

月光を鈍く反射していた。


騎士たちが息を呑む。


「……っ」


「黒翼……!」


「まさか本当に……」


恐怖が広がる。


神話でしか語られない存在。


“神魔の子”。


その証だった。


ガブリエラ自身も、

何が起きているのか分からなかった。


背中が熱い。


痛い。


身体の奥から力が溢れ続けている。


呼吸が乱れる。


「ぁ……っ……!」


視界が揺れる。


頭の中へ、

大量の記憶が流れ込む。


戦争。


炎。


黒い翼を持つ軍勢。


そして――。


幼いカサンドラが、

鏡を見て泣いている。


『いや……いやぁ……!』


背に生えた黒翼。


化け物だと叫ばれる声。


石を投げられる痛み。


ガブリエラの胸が締め付けられる。


怖かったのだ。


カサンドラはずっと。


この翼を。


自分自身を。


「ガブリエラ!!」


ノクスの声が響く。


次の瞬間。


彼が強く抱き寄せた。


「落ち着け!!」


低い声。


その温度に、

暴走しかけた意識が僅かに戻る。


だが騎士たちは動揺していた。


アベルが険しい顔で呟く。


「……覚醒したか」


彼の瞳には、

初めて明確な警戒が浮かんでいた。


神殿騎士の一人が叫ぶ。


「危険です!!

今すぐ討伐を――」


「やめろ」


アベルが即座に制した。


「刺激するな」


その言葉通りだった。


今のガブリエラは危険すぎる。


感情と魔力が完全に連動している。


少しでも刺激されれば、

何が起こるか分からない。


ノクスはガブリエラを支えながら、

低く囁いた。


「俺を見ろ」


赤い瞳が近い。


ガブリエラは荒い呼吸のまま、

彼を見る。


「大丈夫だ」


落ち着いた声。


不思議だった。


彼の声を聞くだけで、

身体の熱が少しずつ引いていく。


「……こわい」


震える声が漏れる。


翼なんて。


こんなもの。


本当に化け物みたいだ。


するとノクスは迷いなく言った。


「綺麗だ」


ガブリエラは目を見開いた。


「……え」


ノクスは黒翼を見上げる。


月光を浴びる漆黒の羽。


その瞳に恐怖はない。


嫌悪も。


ただ静かな熱だけが宿っていた。


「お前の翼は綺麗だ」


その瞬間。


胸の奥で、

何かが崩れた。


今まで誰も、

そんなこと言ってくれなかった。


カサンドラの記憶の中でも。


化け物。


忌み子。


災厄。


そんな言葉ばかりだった。


だから。


涙が零れた。


「……っ」


ノクスは驚いたように目を細める。


ガブリエラは泣きながら、

必死に唇を噛んだ。


「こんなの……

気持ち悪いって……思ってた……」


ノクスは静かに首を振る。


「誰が決めた」


その言葉が、

心へ深く刺さる。


ガブリエラは肩を震わせた。


アベルはその様子を黙って見ていた。


やがて低く口を開く。


「……ノクス」


「なんだ」


「本気でその娘を守る気か」


ノクスは即答した。


「ああ」


迷いのない声。


アベルの目が細められる。


「世界を敵に回しても?」


ノクスは小さく笑った。


「今さらだろ」


その空気に、

騎士たちがざわつく。


アベルはしばらく沈黙していた。


やがて剣を下ろす。


「撤退する」


騎士たちが目を見開く。


「し、しかし……!」


「今は刺激しない方がいい」


アベルはガブリエラを見る。


その目には、

複雑な感情が浮かんでいた。


恐怖。


警戒。


そして――。


微かな憐れみ。


「神殿は必ず追う」


冷たい声。


「次は逃がさん」


そう言い残し、

騎士たちは森の闇へ消えていった。


静寂が戻る。


だが。


ガブリエラの身体は限界だった。


力が抜ける。


視界がぼやける。


ノクスがすぐ抱き止めた。


「おい」


「……ねむ……い……」


魔力を使いすぎた。


意識が沈んでいく。


最後に見えたのは、

酷く焦ったノクスの顔。


その表情が、

なぜか少し嬉しかった。



夢を見た。


暗い部屋。


小さなカサンドラ。


一人で膝を抱えている。


そこへ、

黒い外套の少年が現れる。


今より少し幼いノクスだった。


『また泣いてるのか』


幼いカサンドラは怯えながら顔を上げる。


『……こわくないの?』


『何が』


『わたし』


少年ノクスは呆れたように溜息を吐いた。


そして。


小さな頭を乱暴に撫でる。


『馬鹿だな』


低い声。


でも優しかった。


『お前は別に、

化け物なんかじゃない』


幼いカサンドラが、

目を見開く。


その瞬間。


夢の中の景色が崩れた。


ガブリエラはゆっくり目を開ける。


天井。


暖炉の火。


柔らかな毛布。


どこかの部屋。


そして――。


すぐ隣には、

椅子へ座ったまま眠るノクスがいた。


彼の手は、

ずっとガブリエラの手を握ったままだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ