第百三章『絶対に離さない』
世界が白く染まっていた。
轟音。
崩れる空。
吹き荒れる魔力。
誰も動けなかった。
ガブリエラだけが、
震える瞳で空を見上げている。
「……ノクス」
返事はない。
白い光の中へ、
彼は消えた。
胸が苦しい。
呼吸ができない。
嫌だ。
また失うのは嫌。
五百年前も。
きっと、
同じだった。
守られて。
置いていかれて。
一人になった。
その瞬間。
頭の奥で、
封じられていた記憶が完全に開く。
――五百年前。
崩壊する世界。
黒翼の青年は、
裂け目を閉じるため一人で戦っていた。
少女は泣きながら叫ぶ。
『行かないで!!』
だが。
青年は笑った。
『お前が生きるなら、
それでいい』
そして。
裂け目へ消えた。
少女は最後まで、
彼の名前を叫び続けていた。
ガブリエラの目から涙が溢れる。
「……また、
同じなの……?」
嫌だ。
絶対に。
今度は。
今度こそ。
失いたくない。
ガブリエラは空を見上げた。
白い光の中心。
そこに、
まだ微かに黒炎が見える。
生きてる。
そう確信した瞬間。
ガブリエラは走り出していた。
「ガブリエラ!!」
レオンハルトの叫び。
止まらない。
セレフィナが目を見開く。
「まさか……!」
ガブリエラは銀黒の翼を広げる。
膨大な魔力が溢れた。
空気が震える。
巫女の力。
完全解放。
銀と黒の光が、
王都を包み込む。
巨大な存在が初めて動揺した。
『何……!?』
ガブリエラは涙を流しながら、
空へ飛ぶ。
「絶対に離さない!!」
叫び。
願い。
想い。
全部、
力へ変わる。
五百年前は間に合わなかった。
でも。
今回は違う。
白い光の中へ飛び込む。
熱い。
苦しい。
身体が裂けそう。
それでも進む。
そして。
見つけた。
黒炎に包まれ、
崩れ落ちるノクスの姿を。
「ノクス!!」
ガブリエラは彼を抱き締める。
ノクスが微かに目を開いた。
金色になっていた瞳が、
ゆっくり赤へ戻る。
「……なんで、
来た」
掠れた声。
ガブリエラは泣きながら叫ぶ。
「置いていかないで!!」
ノクスの目が揺れる。
ガブリエラは彼へしがみつく。
「一人で行かないで……!
今度は、
絶対一緒に帰るの!!」
涙が零れる。
ノクスはしばらく呆然としていた。
やがて。
苦しそうに笑う。
「……反則」
そして。
震える腕で、
ガブリエラを抱き締め返した。
その瞬間。
二人の魔力が重なる。
銀黒の光と黒炎。
巨大な光が、
空全体を包み込んだ。




