第百二章『黒き翼』
凄まじい黒炎が、
夜空を焼き尽くした。
轟音。
空気が震える。
王都を覆っていた黒い腕が、
次々と消し飛んでいく。
騎士たちが息を呑む。
「すごい……」
「これが、
ノクス様の本当の力……」
だが。
ガブリエラの顔は青ざめていた。
違う。
今までと、
力の出方が違う。
黒炎が暴走寸前なのだ。
ノクスの背中から、
巨大な黒い翼が広がる。
禍々しく。
そしてどこか、
悲しいほど綺麗だった。
巨大な存在が低く笑う。
『ようやく目覚めるか』
ノクスの周囲の空間が歪む。
黒炎が荒れ狂い、
王都の石畳まで焼き始める。
レオンハルトが叫んだ。
「ノクス!
抑えろ!!」
だが。
ノクスは返事をしない。
赤い瞳が、
ゆっくり金色へ変わっていく。
ガブリエラの心臓が凍る。
五百年前の記憶。
血だらけで戦う黒翼の青年。
最後に。
彼は一人で裂け目へ飛び込んだ。
『生きろ』
あの声。
あの背中。
全部。
ノクスだった。
「……っ!」
ガブリエラの目から涙が零れる。
ノクスはずっと、
自分を守っていた。
五百年前から。
何度世界を繰り返しても。
一人で全部背負って。
その時。
巨大な存在が、
王都へ向け巨大な光を放った。
終焉の光。
王都そのものを消し飛ばす一撃。
騎士たちが絶望する。
避けられない。
だが。
次の瞬間。
ノクスが空へ飛び上がった。
黒い翼が夜空を裂く。
「ノクス!!」
ガブリエラの叫び。
ノクスは振り返る。
その顔は、
不思議なくらい穏やかだった。
そして。
口が動く。
『愛してる』
直後。
ノクスは一人で、
終焉の光へ突っ込んだ。
世界が白く染まる。
轟音。
衝撃。
空気が消える。
ガブリエラは叫んだ。
「ノクスーーーー!!」




