第百一章『終焉の門』
空が裂けていた。
王都全体を覆うほど巨大な裂け目。
黒い雷。
吹き荒れる瘴気。
人々の悲鳴が遠くで響いている。
その中心から現れた“何か”を見て、
誰もが言葉を失った。
巨大だった。
山のような黒い影。
無数の赤い瞳。
そして。
空間そのものを歪ませるほどの圧倒的な存在感。
騎士たちが震える。
「……化け物」
「こんなの、
どうやって……」
レオンハルトが剣を握り締める。
だが。
その蒼い瞳にも、
隠しきれない緊張があった。
ノクスはガブリエラを背へ庇うように立つ。
赤い瞳が鋭く細められる。
『黒き巫女』
低い声が、
空全体から響いた。
ガブリエラの身体が震える。
頭の奥が痛い。
知らない記憶が、
次々流れ込んでくる。
五百年前。
世界崩壊の日。
巨大な裂け目。
泣きながら封印を行う少女。
その隣には、
血だらけの黒翼の青年。
『生きろ』
『今度こそ、
お前を一人にしない』
ガブリエラは息を呑む。
まさか。
ノクスは――
「思い出すな」
突然、
ノクスが低く言った。
ガブリエラが彼を見る。
赤い瞳。
苦しそうだった。
「今は、
それ以上思い出すな」
その声に、
焦りが混ざっている。
だが。
巨大な存在は笑った。
『無駄だ』
裂け目がさらに広がる。
王都の空が崩れていく。
『運命は繰り返す』
次の瞬間。
無数の黒い腕が、
王都へ降り注いだ。
「総員、防御!!」
レオンハルトが叫ぶ。
騎士団が動く。
魔法陣。
結界。
だが。
圧倒的すぎる。
結界が次々砕けていく。
悲鳴。
崩れる建物。
炎。
王都が壊れていく。
ガブリエラは歯を食いしばった。
守らなきゃ。
でも。
敵が強すぎる。
その時。
ノクスが静かに前へ出た。
「ノクス?」
彼は振り返らない。
ただ。
黒炎だけが、
静かに揺れていた。
「……これ、
たぶん長く持たねぇ」
低い声。
ガブリエラの胸が冷える。
ノクスは続けた。
「だから、
先に言っとく」
ゆっくり振り返る。
赤い瞳。
優しくて。
切ない目だった。
「お前に会えてよかった」
世界が止まった気がした。
ガブリエラは目を見開く。
「なに、
言って……」
ノクスは少し笑う。
でも。
どこか覚悟を決めた顔。
「絶対、
守るから」
その瞬間。
凄まじい黒炎が、
空へ解き放たれた。




