第九十八章『眠る前の時間』
その日の夜。
ガブリエラは自室のベッドへ腰掛けながら、
ぼんやり窓の外を見ていた。
昼間も結局、
ノクスは何度も会いに来た。
訓練の合間。
廊下。
食堂。
少しでも時間があれば、
当然みたいに隣へ来る。
しかも。
触れる距離が近い。
手を繋ぐのも、
抱き寄せるのも、
もう自然になっていた。
「……慣れない」
ガブリエラは顔を押さえる。
好きな人に甘やかされるのって、
こんなに心臓へ悪いんだ。
その時。
コンコン。
窓が軽く鳴った。
「……また?」
カーテンを開ける。
やっぱり。
そこにはノクスがいた。
黒い翼。
夜風に揺れる黒髪。
そして、
いつもの笑み。
「来た」
「分かってた……」
ガブリエラがため息混じりに言うと、
ノクスは楽しそうに笑う。
窓を開けると、
彼は自然に部屋へ入ってきた。
もう慣れた動きだった。
ノクスは部屋を見回しながら、
ベッドへ視線を向ける。
「……眠る前?」
「そうだけど」
「なら少しだけ一緒にいる」
当然みたいに言う。
ガブリエラは少し照れながら、
ベッドの端へ座り直した。
ノクスも隣へ腰掛ける。
距離が近い。
肩が触れる。
静かな部屋に、
鼓動だけが大きく感じた。
ノクスはふいに、
ガブリエラの髪へ触れる。
優しく撫でながら、
小さく呟く。
「今日も無事でよかった」
その声は、
思っていたよりずっと柔らかかった。
ガブリエラは彼を見る。
赤い瞳は、
本当に安心したみたいに揺れている。
ガブリエラはそっと笑った。
「心配しすぎ」
「する」
即答。
ノクスは視線を逸らさずに続ける。
「好きな奴だから」
胸が熱くなる。
ガブリエラは少し照れながら、
彼の肩へ寄りかかった。
すると。
ノクスが驚いたように目を瞬く。
「……甘えてくるの珍しい」
「たまには」
ノクスは数秒黙ったあと、
ふっと笑う。
そして。
嬉しそうに、
ガブリエラをそっと抱き寄せた。
「……やばい、
今日眠れねぇかも」
「どうして」
「幸せすぎて」
ガブリエラは思わず吹き出す。
部屋の中は静かだった。
窓の外では、
雪がゆっくり降っている。
二人は寄り添ったまま、
穏やかな夜を過ごしていた。




