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断罪夜会、家庭裁判所になる。王子、和解しないと破滅しますよ?  作者: ニャルC


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第2話:【民法】婚約破棄の代償は「愛」では払えません

第2話:【民法】婚約破棄の代償は「愛」では払えません


 会場の空気は、王子の怒号ではなく、

リチャードが発した「誘拐未遂」という不穏な単語によって凍り付いていた。

だが、王子はなおも男爵令嬢の肩を抱き寄せ、震える声で叫ぶ。

「……ああ言えばこう言う!

ならば、追放が無理だというなら、せめて婚約だけでも今すぐ破棄してやる!

私は彼女を愛しているんだ、

カトリーヌのような冷酷な女とは一秒たりとも婚約者でいたくない!」


 リチャードは溜息をつき、バインダーのページをめくった。

「殿下。本日発効した新民法において、婚約は法的な『契約』です。

正当な理由なき一方的な破棄は、債務不履行、および不法行為を構成します」


「なんだと……? 理由ならある! 私の愛だ! 愛がなくなったことが最大の理由だ!」


「残念ながら、殿下の主観的な感情は法的な解釈において『正当な事由』には含まれません。

むしろ――」

リチャードは視線を、王子の腕の中にいる男爵令嬢へと向けた。

「男爵令嬢。貴女にも申し上げたい。

貴女は、殿下に婚約者がいると知りながら深い仲になりましたね?

これはカトリーヌ様が持つ『平穏に婚姻へ至る権利』を侵害する、立派な共同不法行為です」


「え……? あ、私たちは、ただ愛し合っているだけで……」  

男爵令嬢の顔から血の気が引いていく。


「愛は自由ですが、契約(婚約)を破壊した責任は取っていただきます。

新法に基づき、カトリーヌ様はこの不貞行為に対する慰謝料を、

殿下と貴女の双方に『連帯債務』として請求する権利を有しています」


「れ、連帯債務……?」


「ええ。さらに、婚約期間中の数年間、公爵家が殿下および王室へ提供した経済的支援。

これらはすべて『婚姻の成立』を前提とした投資です。

婚約が殿下の不祥事で破綻した場合、信義則に基づき、

これまでの贈与および融資の即時一括返還を求めることができます」


 リチャードが懐から取り出したのは、一枚の試算表だった。

「公爵家からの低利融資の元本、および利息。

王子の品位保持のために支出された特別手当の清算。

口にするのは よしておきます」


 会場にいた貴族たちが、一斉に男爵令嬢から数歩距離を置いた。  

王子が贈ったとされる彼女の首飾りが、

今や「差し押さえ対象」の赤紙に見えてきたからだ。


「馬鹿な……! そんな金、払えるはずがないだろう!」


「おや、殿下。先ほど『愛は金じゃない』と仰ったのは貴方です。

金で解決できないのであれば、王室財産を差し押さえるまでのこと。

男爵令嬢、貴女もですよ。

貴女が今日着ているそのドレスの代金も、

実はまだカトリーヌ様の実家の商会に支払われていない『未払い金』として処理されています。

明日からは、その宝石一つ残らず、我々が回収に伺います」


「あ……あ、あ……」

男爵令嬢は、糸の切れた人形のようにその場にへたり込んだ。


 カトリーヌ様は、そんな二人を氷のような瞳で見下ろし、リチャードに囁いた。

「ねぇリチャード。この負債、彼らが愛を貫くことで完済できるかしら?」

「いいえ。複利計算(重利)を加味すれば、彼らの愛が永遠だとしても、

返済が終わる前に寿命が尽きるでしょうね」


 王子は絶望に顔を歪めるが、まだ最後の切り札があるかのように声を絞り出した。

「だ、だが! カトリーヌがいじめを……彼女に嫌がらせをした証拠があるんだ!

それさえあれば、正当な破棄理由になるはずだ!」


 リチャードの目が、眼鏡の奥で鋭く光った。

「……証拠、ですか。では、その検分に移りましょうか」


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