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断罪夜会、家庭裁判所になる。王子、和解しないと破滅しますよ?  作者: ニャルC


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第1話:【刑法】追放という刑罰は存在しません

第1話:【刑法】追放という刑罰は存在しません


 シャンデリアが煌々と輝く祝賀夜会の隅で、法務事務官のリチャードは懐中時計を確認した。

「……昨日の午前零時をもちまして、新憲法、および改正刑法・民法はすべて正式に発効いたしました。

告知から一年、ついにこの国も隣国の模倣ではない、独自の法治国家として歩み出すわけです」

「ええ。わたくしの実家が私財を投じて進めたプロジェクトだもの。

まずは『ルールが個人の感情に優先する』という事実を、この国の貴族たちに教育して差し上げなくては」

カトリーヌは公爵令嬢というより、辣腕の投資家のような鋭い瞳で会場を見渡した。

「ところでリチャード。施行前に行われた王族向けの法講習、王子殿下は出席されていたかしら?」

「ええ。ですが、あくびを噛み殺しながら隣の男爵令嬢に恋の詩を書くのに夢中で、居眠り同然でしたね。

……おや」


 会話を遮ったのは、不躾な衝撃だった。  

通りすがりの隣国使節の男が、すれ違いざまにカトリーヌのドレスに自分の剣のさやをぶつけたのだ。

いわゆる「鞘当て」である。  

この国の貴族であれば、鞘当てを避けるために右利きを徹底して矯正される。

左腰に鞘を差し、右側通行をするのが鉄則だ。

しかし、その男は右腰に鞘を挿し、不敵な笑みを浮かべて第二王子の方へ去っていった。

「……右腰に鞘。隣国には利き手の矯正文化がないとはいえ、随分と無作法ですね」

「あら、気付かなかった? 彼はわざとぶつけたのよ。

法治を推進するわたくしの家に対する、ささやかな嫌がらせでしょうね」

「なるほど。……左利き、覚えておきましょう」


 その時、会場の中央で、第二王子が男爵令嬢の腰を抱き寄せ、高らかに声を張り上げた。

「カトリーヌ公爵令嬢! 前へ出ろ!」

 音楽が止まる。

静寂の中、王子は勝ち誇ったように宣告した。

「貴様の悪行はすべて把握している。

よって、本日をもって貴様との婚約を破棄し、この国から永久に追放する!」


 会場にどよめきが広がる。

 男爵令嬢は悲劇のヒロインを演じるように王子の胸に顔を埋めた。  

カトリーヌ様は溜息をつき、私に視線を送る。

 私は事務的にバインダーを叩き、前へ出た。


「殿下、失礼いたします。法務事務官として、その宣告を『棄却』させていただきます」

「な、なんだと……!? 貴様、誰に向かって言っている!」

「昨日発効いたしました新刑法。わが国において居住移転の自由は国民の基本的人権です。

正当な刑事裁判の手続きなしに、個人の意思で国外へ放逐する『追放刑』は、

既に法体系から完全に削除されました」


動揺する王子に、冷徹な事実を畳み掛ける。

「今の殿下の宣告は、現行法における『不当拘束』および『誘拐未遂』に該当しうる重罪です。

法を執行する側の王族が、初日にして法を犯されるとは。講習での居眠りの代償は大きいですよ」

「だ、黙れ! 私は王子だぞ! この女を目の前から消したいと言っているのだ!」

 すると、背後からカトリーヌが優雅に歩み寄った。

「殿下。わたくしをどうしても国外へ出したいのであれば、しかるべき公務を与えてくださればいいのよ。

……リチャード、外交官の席は空いていたかしら?」

「ええ。隣国への特命全権大使のポストが。あちらは美食の国として有名ですし、気候も穏やかです。

公務員法に基づき、住居費と護衛費用も全額公費――つまり、王室予算から支出されますね」

 カトリーヌ様は楽しげに扇を広げた。

「素敵。わたくし、あちらのワインが大好きなの。……ねぇリチャード、あなたも来る?

優秀な事務官がいないと、向こうで書類仕事に追われて美味しいガレットを食べ損ねてしまうわ」

「お誘い光栄です、カトリーヌ様。仰せのままに」


「ふ、ふざけるな! 遊びに行くのではないのだぞ!」  

顔を真っ赤にする王子をよそに、私は冷たく告げた。

「殿下、これは公務です。不服であれば、どうぞ新刑法を読み直してください」

王子といえど法の上には立てない。  

それが、カトリーヌ様の実家が心血を注いで整備した、この国の新秩序であった。

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