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壊滅の魔人 ~最後の一人まで、俺は人間を殺し続ける~  作者: ぶらっくそーど


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22/28

《殺気浸蝕》


 迎え撃つ――時を待たない。


 ニクスの判断は明快だった。「集落で迎撃するより、境界付近で叩いた方がいい。集落が戦場になったら非戦闘員が巻き込まれる」。俺もその判断に従った。


 編成はこうだ。


 前衛にガルムと俺。ゴーレム系が二体、盾役で前に出る。


 中衛にインセクト系の甲虫型が六体。


 後方にニクスと伝令用の怪鳥種。


 ミラは俺の横。ワーム系は地中を並走して、必要なときに下から崩す。


 東に向かって走った。



    ◇



 半日ほど走ったところで、ミラが声を上げた。


「レイド、左に外れて。三百歩くらい北に、何かあるよ」


「何かって?」


「『残留怨嗟』……強い。……村の跡だと思う」


 走る足を止めた。北に逸れると、森の中に開けた場所があった。


 また、焼け跡だった。


 もう何度目だか分からない。草に埋もれた家の土台、崩れた壁、朽ちた柵。ここも「処分」された村の一つだ。書類にあった七つのうちの、四つ目。


「回収する?」


「ああ、直ぐにやろう」


 村の中心に立って、目を閉じた。怨嗟を引き寄せる感覚は慣れた。手を伸ばして、地面に染みた怒りを引き上げる。


 ――流れ込んできた。


 知らない名前が腕に刻まれていく。十五、二十——三十人近い。小さな村だが、怨嗟の密度が濃い。


 何年も弔われずに腐っていた怒りが、一気に体の中に注がれていく。


 名前が定着し終わったとき、体の奥で何かが弾けた。


 前にもあった——ホルン村のとき、アンロックスキルが開きかけた感覚。今回はそれが更に進んで、もう一段深い場所で何かが回った。


「ミラ」


「うん、読んでるよ……あ、これ」


「どうした?」


「読める範囲のアンロック――その最後の一つが、開いた」


「それ……読めるか?」


「読める……スキル、《殺気浸蝕》」


「《殺気浸蝕》?」


「対象に殺気を流し込んで、内側から蝕むスキル。《殺気縛鎖》は外から縛るけど、これは()()()()。体の中を殺気で侵食して、防御も鎧も関係なく、中身を壊す」


 防御も鎧も関係なく、中身を壊す。


「《殺気強圧》は?」


「しきい値、また上がってる。もう一段吸ったら、Ⅲに届くかも。今回はまだⅡの範囲内だけど、上限に近い」


 まだⅡ……でもあと一つか二つ吸えばⅢ、そして分かる範囲のスキルが全部開いた。


「色々と試したいことはあるけど、行くぞ――人間が来てる」


「うん」



    ◇



 境界付近の丘陵地帯に出ると、東から土煙が見えた。


「来たね」


 ミラは目を細めた。


「百二十人前後――歩兵が八十、弓兵が二十、騎馬が十。そして……白い鎧が五。聖騎士だ」


 聖騎士が五人。ローランの部隊とは別の隊。等級Ⅲが五人もいれば、普通のモンスターの集落なら壊滅する規模だ。


「ニクス、こいつらは何で来た。俺を狙ってるのか」


「いや、たぶん違う。人間はもともと、定期的にモンスター領域に遠征してくるんだよ。集落を潰して、同胞を捕獲して、領域を削り取る。ホルデの依頼の半分はそれへの対処。今に始まったことじゃない」


「じゃあ、俺とは関係ないのか」


「関係なくはない。規模が普段より大きいし、聖騎士まで投入してる。たぶんイグナスが、魔人がこっちで力を蓄える前にモンスターの集落を潰しておこうって判断したんだと思う。レイドの居場所を特定したんじゃなくて、境界沿いを広く圧迫してるのかな」


 なるほど。俺を直接狙ったわけじゃないが、だからって俺にとって無関係な話じゃない。


「ニクス、作戦は?」


「変えないよ。レイドとガルムが正面から突っ込んで、歩兵と弓兵を蹴散らす。インセクト系が側面から騎馬を引きずり倒す。聖騎士はレイドが引き受けて。ぼくらじゃ聖属性に対抗できない」


「了解」


「あと、ワーム系に一つ仕込みをさせてある。合図したら地面が割れるから、そこにいないように」


「お前の合図で俺が落ちたら笑えないぞ」


「大丈夫、レイドの位置はミラが見てるから」


 丘の向こうに、人間の隊列が見えた。


 銀色の鎧の列、その中に混じる白い鎧。旗を掲げている。王国の紋章だ。


「モンスターの領域に踏み込んできた、か」


 そう呟くと、怒りが湧き上がってきた。


 こいつらは俺たちの領域に攻めてきた。……同胞の住む場所を潰しに来た。フェルン村を焼いたのと同じ奴らだ、俺のやることは変わらない。


 全員殺すために、立ち上がった。丘の上に、姿を晒した。


 向こうの隊列がざわめいた。こっちを見ている。


「あいつだ! 人型のモンスター……『魔人』!!」


「報告通りの特徴……全身の刻印!!」


「討伐対象確認! 全軍、戦闘態勢!!」


「伝令を走らせろ!! 至急、王国に『魔人』の所在を――」



《スラッシュ》で、伝令係と指揮を飛ばす男の首を跳ねた。


 何言ってるんだ? 行かせるわけないだろ。


 お前たちは全員、ここで殺されるんだよ。



「……撃て……総員、撃てええええええぇ!!!」


「「「オオオオオオオオオオオォ!!!」」」


 それが引き金なって、いよいよ戦いが始まった。


 まず弓兵が弓を引いた。歩兵は盾を構えた。騎馬は剣を抜いた。百二十人の人間共が、一斉に俺に向かって殺意を向けてくる。


 だが――足りない。


「ガルム」


「おう!」


「行くぞ――皆殺しだ」


 ダッと、一気に丘を駆け下りた。


 ――直ぐに矢が飛んできた。二十本、三十本。全部、俺の肌で折れた。ガルムの皮膚でも弾かれた。ゴーレム系の石の体にも刺さらなかった。アーチャークラスのスキルだろうが、矢が効く相手は、この部隊にはいない。


「効かねえ! スキル《アローショット》が効かねえぞ!」


「歩兵、前に出ろ! 急いで盾を——!!」


「スキル——《スラッシュ》」


 右腕に怨嗟を集中させた。さっき訓練した、局所強化。


 全開じゃない、右腕だけに絞った一撃。


 ――振った。


「が……っ!!?」


 その瞬間に、盾の列が消し飛んだ。盾ごと、盾の後ろの兵ごと、その後ろにいた弓兵ごと。斬撃が地面を抉りながら百歩先まで走って、通り道にいた人間を上と下に分けた。二十人近くが一振りで散らばった。地面に赤い川ができている。きたねえ水路だ。


 まあでも、局所強化でこれか。全開なら、何が起きるか分からないな。


「ひっ——化け物!! 化け物……来るなぁ!!!」


「おい、逃げるな!! 隊列を保てぇ!!!」


 逃げ惑う人間共に、ガルムが左翼から突っ込んだ。走り抜けるだけで歩兵が吹き飛ぶ。掴んだ兵の脳天を地面にガリガリと引きずり回して、叩きつけて、鎧ごと潰した。バチャッ! と、赤い染みが草原に広がる。


 側面からは、インセクト系の甲虫モンスターが騎馬に食いついていた。六本の脚で馬の足を掴んで引き倒し、落馬した騎士を甲殻で押し潰す。ブチュッ、ブチャッ、断末魔と混ざっていい音を奏でている。馬は暴れて逃げ出して、隊列が崩れた。


 まあ、馬はいいか。動物だし、殺す必要はないだろう。


 そうして逃げ出す人間を、《スラッシュ》で木っ端みじんにしながら眺めていることしばらく――結局の所、一分もかからなかった。百二十人のうち、歩兵と弓兵はもう壊滅している。


 立っているのは騎馬の残りと——


「来たか……聖騎士」


 五人の白い鎧が、崩壊した隊列の中を悠然と歩いてきた。


 周りの兵が死んでいるのに、動揺がない。こいつらだけ、別格の存在か。


「各員、聖陣を——!」


「バカか、組ませるわけないだろ。――《殺気縛鎖》」


 五人に俺の殺気を飛ばした。


 三人は膝をついて硬直した。一人は弾いた——聖属性の防御で殺気を蹴散らしている。残りの一人は、聖属性を纏って《殺気縛鎖》を弾き返した。


 三人しか縛れなかった。聖騎士相手だと、殺気系のスキルが減衰するのか。


「聖陣!!」


 縛れなかった二人が聖陣を張った。


 白い光が二人の間を走って、俺に向かって収束する。ローランのときと同じ——聖属性集中攻撃。


「スキル——《ホーリーセイバー》!!」


 先頭の聖騎士が光の剣を振った。鬱陶しい白い斬撃が飛んでくる。


 真っ正面から受けたが——温い。


 ローランの聖陣を喰らったときは、普通に痛かった。でも、怨嗟を吸収したことで、《殺気強圧Ⅱ》のしきい値が上がっている。四つ目の村の怨嗟が効いている。


「嘘だろ……聖陣による一撃が通じてない……!?」


「前は痛かったんだがな……今回は、この程度か」


 もう用済みだ、全員殺そう。


 俺は一歩前に踏み込んだ――右腕に局所強化。


 怨嗟を右腕だけに集中させて、練習用の剣を振り上げる。


「スキル——《スラッシュ》」


「あ……がぁ……っ!!?」


 聖騎士の聖陣ごと斬り裂いた。白い光の壁が砕けて、後ろにいた聖騎士の鎧が胸から裂けた。中身が飛び散って、白い鎧が赤く染まる。


 もう一人の聖騎士は、悲鳴を上げて後退した。


「ま、待て、待て待て待て待て! 俺たちは、王国の正義のために戦っていて——!」


 そう言えばだが、新しいスキルがあるんだった。


《殺気浸蝕》――ちょうどいい、こいつで試そう。


 俺は手を伸ばして、逃げようとした聖騎士の顔面に触れた。


「ぎ……っ!?」


 殺気を、流し込んだ。


 それと同時に、聖騎士の体が激しく痙攣し出した。


 鎧の隙間から黒いモヤが漏れ出して、中の人間が内側から壊されていく。口から血が溢れて、目が裏返って、白い鎧の中でぐちゃぐちゃに崩れた。


 外傷なし――鎧も無傷。でも、中身だけが全部、全部潰れている。


「ねえレイド、今のが新しいスキル?」


「ああ、スキル《殺気浸蝕》――触れた相手の中に殺気を流し込む。防御も鎧も関係ない。中身を直接破壊する」


「……えげつないね」


「こいつらのやってきたことを思うと、そうでもないぞ」


「確かに。正しい報いだね」


「そういうことだ」


《殺気縛鎖》で動けない三人の聖騎士が、まだ地面に膝をついている。目だけが動いて、俺を見ている。恐怖で涙が流れていた。


「レイド、この人間たちはどうする?」


「もう伝令係も必要ないしな。さっさと殺そう、時間の無駄だ」


「……っ!!!」


 聖騎士たちが目で何かを――まあ、命乞いか。を訴えてきたけど、俺が聞く耳を持つわけがない。


「スキル——《殺気浸蝕》」


 三人に順番に触れた。一人ずつ、中身を壊していく。見た目は全然変わってないのに、まず臓器が破壊されて、心臓がぐちゃぐちゃになって、骨という骨がひしゃげ折られて、血管が破裂して死ぬ。


 さてと……これで百二十人、全滅だ。


「ニクス、終わったよ」


「うん……百二十人全員の死亡を確認。こちらの被害はゼロ」


 被害ゼロ。百二十人の討伐遠征隊を、被害ゼロで殲滅した。


「……ね、レイド」


「何だ、ミラ?」


「強くなってるよ。確実に」


 ミラの声が、わくわくと聞こえてきそうなほど嬉しそうだった。


 強くなってる――そうだな。


 局所強化で聖騎士を圧倒して、新しいスキルで内側から壊した。前のローラン戦とは段違いだ。


 でも、まだ足りない。あの勇者には、まだまだ届かない。


「次の村を探そう。あと三つ残ってる。全部回収する」


「そうこなくっちゃね、レイドは」


「嬉しそうだな」


「だって、わたしの未来の旦那様でしょ?」


「いや……だから、まだそういう関係になるつもりは……」


「あ、今『まだ』って言ったね」


「……行くぞ、ミラ」


「あー、ごまかしちゃうんだぁー!」



 俺はご機嫌にスキップするミラを傍目に歩き出した。




―――――――――――――――

▼ レイド ― ステータス

【種族】魔人

【等級】測定不能

【名前】————(表示不可)

【クラス】剣士(残留思念)/???


◇ 剣士系スキル(残留思念)

《スラッシュ》……斬撃(初級)

《スラスト》……突き(初級)

《スイープ》……全方位一掃(初級)

《ラッシュ》……連撃(初級)

※ 出力は固有スキル《殺気爆発》の影響により最上位級


◇ 固有スキル

《殺気強圧Ⅱ》……常時発動(パッシブ)スキル。一定以下の攻撃を無効化、一定以上の攻撃を低減

《殺気爆発》……バフスキル。全ステータス、魔力、スキル威力を大幅増加(局所強化の制御を習得)

《殺気縛鎖》……対象指定の拘束スキル。射程内の対象の身体の自由を長時間奪う。自然解除なし(複数対象可・消耗あり)

《殺気浸蝕》……接触型の侵食スキル。触れた対象の内部に殺気を流し込み、防御を無視して内側から破壊する

(他、数個の不明スキルあり)


※四つ目の処分済み村の怨嗟を吸収。《殺気浸蝕》が開放。《殺気強圧Ⅱ》のしきい値がさらに上昇(聖陣の一撃が「温い」レベルに低減)。《殺気爆発》の局所強化を使用可能に。王国の討伐遠征隊120人を被害ゼロで殲滅完了。

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