表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
壊滅の魔人 ~最後の一人まで、俺は人間を殺し続ける~  作者: ぶらっくそーど


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/28

俺の枷《ギアス》は何だ


 戦いの翌朝、集落は騒がしかった。


 百二十人の遠征隊を被害ゼロで殲滅した話が、怪鳥種の伝令で森中に飛んでいる。ニクスが情報を流す速度は相変わらず異常で、昨夜のうちに三つの集落に戦果が届いたらしい。



「レイド、南の集落と西の集落から使者が来てるよ」


「使者?」


「あなたに会いたいって。百二十人の人間を……しかも聖騎士を五人、あっさり叩き潰した魔人に、興味があるんだって」


 向こうから来た……ニクスが言ってた通りだ。名前を売れば、集落の方から近づいてくる。


 使者は二体。南からはスケイル系の長身の個体で、直立した蛇みたいな見た目だった。西からはプラント系の樹人型で、体の半分が苔に覆われている。


「あなたが『魔人』か……話は聞いている。我々の集落も、人間の侵攻に苦しんでいる。手を組めるなら、是非とも組みたい」


 蛇型のスケイル系が言った。おっさんみたいな渋い声だ。


「大丈夫、俺には拒む理由がない。詳しいことは、ニクスと詰めてくれ」


「了解した」


 あっさり終わった。人間の外交みたいな腹の探り合いがない。必要だから組む、利害が一致するから手を結ぶ。モンスターの世界はシンプルでいい。


 これで五つの集落が繋がった。



    ◇



 午後になって、集落の外の岩場に座った。ミラも自然と隣に座った。


「ねえ、レイド。考え事?」


「ああ……(ギアス)のことを考えてる」


「お、いいね」


「勇者の(ルーン)には(ギアス)がある。『人類を脅かす存在と対峙するとき』。条件があるから、あの範囲内で世界のルールが味方する。俺にも(ギアス)が要る。でも、俺の(ギアス)が何なのかは分からない」


「……それ、自分で見つけないと意味がないんだよね」


「分かってる。でも手がかりがない」


「手がかりならあるよ。レイドの体に」


 ミラが俺の腕を指差した。刻印だ。赤く脈打つ名前の群れ。四つの村の全員の名前が、俺の体を覆っている。


「これが(ルーン)の原型だって、前に言ったよね。この名前たちが、レイドの力の根源。じゃあ聞くけど——この名前は、レイドにとって何なの?」


「何って……殺された人たちの名前だ」


「それだけ?」


「……怒りだ。全員の怒りが、俺の中で燃えてる」


「うん。じゃあ、レイドは何のために戦ってるの?」


「フィーネを取り返すため。あいつらを殺すため」


「それを分けて」


「……分ける?」


「フィーネを取り返すのと、あいつらを殺すのは、別の力でしょ? 片方は()()力、片方は()()力。レイドの核はその二つが溶け合ってるから魔人になれた。でも(ギアス)は、もっと狭くないといけない」


 守ると壊す。フィーネを守りたい気持ちと、王国を壊したい怒りと。確かに二つある。


「どっちかを選べって言ってるのか」


「ううん。選ぶんじゃなくて、()()()()の。『俺はこういう存在だ』って。その定義が(ギアス)になる。定義が狭ければ狭いほど、その範囲内で強くなる」


「……まだ分からない」


「すぐには分からないと思う。でもね、レイド。一つだけ言えることがある」


「何だ?」


(ギアス)は嘘をつけないの。自分を偽った定義は(ルーン)にならない。レイドが本当に何者なのか——それが(ギアス)になる。だから今は考えるだけでいい。答えが出るのは、たぶん、本当に必要なとき」


 本当に必要なとき……。


 腕の名前を見た。マグ、ゴルド、ラッツ。みんなの名前が、いつか俺の(ルーン)の真価になる。でもそれがどんな形になるのかは、まだ見えない。


「……なあ、ミラ」


「何?」


「昨日の戦いで、人間を百二十人殺した」


「うん」


「俺が魔人になってから殺した人間は、もう数えきれない。騎士、兵士、聖騎士――何百人だ。でもさ、未だに慣れないんだよ」


「……慣れないの? それって、もしかして、まだ――」


「違う、優しさじゃない、後悔でもない。そういう意味での慣れないじゃなくて、むしろ……殺すたびに、腕の名前が熱くなる。こいつらの怒りが俺を動かしてる。俺一人の怒りだったら、とっくに慣れてたと思う。でも、この刻印は全員の怒りだから。何百人分の『許さない』が、毎回燃えるんだ」


「……」


「だから(ギアス)は、たぶんそこにある。この名前たちと、俺の関係の中に」


「……ねえ、レイド。わたしはモンスターだから、人間の怒りとか悲しみとか、完全には分からない。でもレイドが名前を見るたびに、顔が変わるのは分かるよ。あれは確かに、慣れてない顔だって」


「……ああ」


「慣れなくていいと思う。慣れたら、たぶん(ギアス)は見つからないから」


 慣れたら見つからない。つまり、この痛みが俺の(ギアス)に繋がっている。


「……ありがとう、ミラ」


「珍しいね、お礼なんて」


「魔人だって、たまには言うさ」


「ふふっ。じゃあ、もう少しだけこうしてていい?」


「……好きにしてくれ」


 ミラが肩にもたれかかった。ほんのりと温かい体温が、いつものように伝わってくる。


 (ギアス)はまだ見えない。でも、どこにあるかは分かった気がする。この腕の名前と、この胸の中の怒りの、境界線の上に。


 見つけるまで、止まらない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ