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冷遇され続けた聖女は、隣国で王太子付き侍女になって人生謳歌します  作者: 甘寧


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5.賢い土地の活用法

 オリヴェルの生まれた町は、火山帯で火山灰が多く降り積もり、作物の育ちが悪い。収穫まで辿り着いたとしても、発育不良で食べれる所はほとんどない。ここ近年では魔獣まで現れるようになり、町の困窮は酷くなる一方だと話してくれた。


「給金の半分以上を仕送りして、なんとかやって来ましたが……」

「そんな理由があるなら、何故もっと早く僕に言わなかった!」

「何度も嘆願書を出しました!」


 オリヴェルの話を聞き終えると、マティアスが立ち上がり責め立てたが、悲痛な表情で言い返してきた。


「……なんだって?」

「その様なもの見ておりませんよ?」


 確認の為ディルクに視線を向けるが、首を横に振っている。

 決算書の不正を見破れなかった二人なので、見落としがないとは限らない。しかし、そんなに何度も見落とすだろうか?


 シャリーは疑問に思い首を傾げたが、その答えはすぐに出た。


「貴方がたが知るはずありませんよ。だって、貴方がたの手元に来る前に、揉み消されていたんですから」


 思い詰めた表情で苦笑し、マティアスを睨みつけた。


 知らなかったとはいえ、国を担う者ならば国情を把握していて当然だろう。と言いたげな顔をしている。

 単なる八つ当たりにも見えるが、行き場のない怒りを自分でも処理しきれないのだろう。


「……タウヴィツ卿(叔父上)か……」

「恐らくは」


 深い溜息を吐きながら項垂れるマティアスが呟いたタウヴィツ卿とは、現国王の弟に当たる人物。

 私利私欲にまみれ、私腹を肥やす為ならば簡単に国をも裏切りそうな人。なんなら、国王の座を狙っているとかいないとか…そんな噂を耳にした事がある。


 大方、利益どころか損失しかない町を支援したところで有益にはならないと踏んだのだろう。無駄に頭がキレる人だから余計にタチが悪い。


 どの世界でも悪役と言うものは絶対的強者となり得る存在だな。


「直接僕に言ってくれれば、良かったものを……」

「貴方に言ったところで変わりませんよ。縁もゆかりも無い者からすれば、採算の取れない町ですから。ですが、私にとっては命を投げ売ってでも守りたい場所なんです」


 力強く言い切るがその瞳は虚ろで、人生に終わりを告げているようだった。


 今後はオリヴェルの仕送りも止まる。国からの支援は難しい。そうなると、町としての存続が危ぶまれる。


(要は、採算が取れるようにすればいいんだけの話なんだよね)


 最悪、町民が暮らせるだけの作物と収入を得られればいい。その打開策なる案を私は持っている。だが、聖女という身を隠してここにいる以上、下手に口を挟むのは良くない。


(ん~~……)


 私はしばらく考えたあと、ソッと手を挙げた。


 純度100%の志に惑いは要らない。そう結論付けた。


「あの~、一つ良いですか?」

「ん?」


 一気に注目が集まり、ビクッと肩が震える。


「この()は?」

「あ、私は怪しいものじゃありませんよ?マティアス殿下の侍女でシャリーと申します」


 最初からこの場に居たのに、まったく眼中になかったと見える。まあ、別にいいんですけどね。目立つより陰に潜んでいる方が楽ですし。


「オリヴェル様のご出身の土壌に関してですが、上手く利用すれば作物は育ちます。単純に知識不足です」

「なにっ!?」


 何気なく言ったつもりがディスるような形になってしまい、オリヴェルは敵意むき出しの表情に変わった。


「い、いや、決して侮辱したつもりはありませんよ!?」

「侮辱していないのなら、どういうつもりで言ったんだい?」


 目の据わった笑みを向けられたら、どうしたって逃げ腰になる。静かに怒りをぶつけられるより、激しく怒鳴りつけられる方が精神的負担が少ない気がしてしまう。


「あのですね、火山灰は土壌改良材としての活用できるんです」

「なんだって?」

「当然、そのままではダメです。良質な堆肥や腐葉土などの有機物と混ぜ合わせることで、保水力や保肥力を高める土壌改良材として利用出来ます。毒も使い方によっては薬になります。それと同じです」


 これは、私の前世の知識。祖父母が農業をしていたとあって、それなりに農作物の知識はある。


「──ですが、大量の降灰は注意が必要です。水はけが悪くなり根腐れしてしまいますし、光合成にも影響を受けます。ビニールハウス……あ~、温室のような透明なガラスの様なもので覆って作物を守るのが一般的ですね。植えるものは、根菜類が良いです。土が柔らかく耕しやすいって点があるのでオススメです」


 ベラベラと一気に喋ったせいか、聞いていた四人は目を丸くして呆然としていた。これでは話を理解できたのか分からないが、伝えるべき事は伝えた。


 残すは──


「あともう一つ、懸念している事がある様なので、こちらをどうぞ」


 部屋の片隅に置いておいた木箱を「よっこいしょ」という掛け声と共に、ドンッと四人の前に置いた。その中には見事な木彫りの神像が入っていた。


 これは先日、買い物を頼まれて城下へ行った際に、東洋の商品を扱う商人と仲良くなって、格安で売ってもらった逸品。


「あ、あ、あ、貴方!殿下の執務室に私物を無断で置いていたのですか!?」

「ちゃんと許可は取ってますよ?しばらく置いておいて下さいって」


 部屋に置きたいのは山々だが、こんな見事な象を置けるスペースがなく、渋々マティアスに頼み込んで置いてもらっている。


 そんな事とは露知らぬディルクは驚きのまま振り返ると、笑顔のマティアスと目が合った。その時のディルクの顔と言ったら……


 ま、今はこの人の顔色を気にしている場合じゃない。そんな事より話を元に戻そう。


「これは?」

「貴方がたには馴染みのない代物ですが、東洋の方では『神』として信仰し、崇められている像です」


 この神像には、私の聖力を込めてあるので魔除けぐらいにはなる。小さな町なら半年ぐらいは効力を発揮するはず。半年が経ち、効力が切れたら……その時はその時考える。


「小さな祠でいいんで祀って下さい。きっと守り神になってくれます」

「……君は一体……」


 ポツリとオリヴェルが呟いた。


「お節介なただの侍女です」


 満面の笑みを向けて言った。

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