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第5話 最初の街へ

(──大変な事になってしまったなぁ……)


 乗合馬車の窓から、外の風景を見ながら黄昏れる。

 今日という一日が始まってから、俺の思考は盗まれてしまったEDソードに縛られていた。


(まさかゴブリンに対処する為に創った剣が、一つの国家を混乱に陥れる事すら出来てしまう魔剣とは……冗談みたいな話だな。笑えないけど)


 今後【創造】する物はもう少し先を見据えて創らないといけないな……そう自戒すると共に、先ずは既に創ってしまったEDソードを何とか回収しなければ、と気を引き締める。

 俺の息子を治すアイテムを創るのも、一旦後回しだ。というのも、EDソードが野放しになってる段階でそう言うアイテムを【創造】するのは、リスクがデカ過ぎるのが分かったからだ。


 俺が貰った能力【創造】は、既にこの世界に存在する物は作れない。それはつまり、俺(・)自(・)身(・)も(・)同(・)じ(・)物(・)は(・)二(・)つ(・)と(・)創(・)れ(・)な(・)い(・)と言う事でもある。

 今俺が迂闊に息子を治すアイテムを創り、使用した後でもう一度EDソードで斬られたら……同じアイテムが作れない以上、今度は永久に息子はうつむいたままになってしまうのだ。


(──そもそも、俺以外の被害者が出てしまった場合、その人達も治療しないといけないんだ。創るタイミングや、どう言う形にするのかも考えないといけないんだよな……)


 いずれにせよ、先ずは例の盗人を捕まえてEDソードを取り戻さなければ始まらない。

 一刻も早くこの先にあると言う街に行きたいと言うのに、そんな逸る俺の気持ちなんて知らないように、馬車はゆったりとしたペースで碌に舗装もされていない街道を進んでいた。


(こんなペースであの盗人に追い付けるのか? もう直ぐ街に着くって話だけど、着いた後はどうやってアイツを追えばいいんだ……)

「──はぁ……」


 思わずため息が漏れる。

 振動で尻も痛いし、散々だ。


「……心配か? 例の男がキミの剣で事件を起こさないかが」

「あ──どうも、ロードリックさん。まぁ、そんなとこです。うまく次の街で捕まえられればいいんですけどね……」


 俺の溜め息が聞こえたのだろう。護衛の為に馬車の外を歩いていたロードリックさんが、わざわざ窓の外にやって来て声をかけてくれた。

 一乗客のメンタルケアなんて、どう考えても冒険者の仕事じゃないだろうに……きっと面倒見が良いタイプなんだろう。

 色々あってパニックになっていたとはいえ、今朝彼に当たってしまった事を内心で改めて反省する。


「次の街で、か……可能性は薄いだろうな。奴は恐らく、もう更に先へ向かってしまっている事だろう」

「ですよね……今まで捕まってないって言うなら、そりゃ逃げ足は速いですよね」

「いや、それもあるが、理由はもう一つあるんだ」

「?」


 どう言う事だろう。

 俺がロードリックさんの言葉を待っていると、彼は少しだけ難しい表情をした後、口を開いた。


「……この先の街から城下町へ向かう途中に、交易の中心である大都市『グランゼリア』があるんだが──奴はそこにしばらく滞在する可能性がある」

「! そうなんですか!?」

「うむ……これは俺も噂でしか聞いた事はないんだが、グランゼリアでは定期的に闇オークションが行われているらしいんだ。それ自体は人と品物が集まる大きな街なら、さほど珍しくもないんだが……──ここだけの話、グランゼリアの闇オークションには、貴族もお忍びで参加すると言う噂がある」

「貴族が……?」


 最後の部分は周囲に配慮してか、小声で俺にだけ聞こえるように告げられた。

 しかし、確かに国や街の治安を守る側である貴族のスキャンダルではあるが……それが今回の一件にどうかかわるのか。彼の言葉を待つ。


「……闇オークションに関わらず、貴族の参加するオークションには一つの特徴がある。彼等が重視するのは実用性よりも希少性や美しさだ。鑑賞に堪える物や、話のタネになる物に金を払う……つまり、『珍(・)品(・)』ほ(・)ど(・)高(・)く(・)売(・)れ(・)る(・)オ(・)ー(・)ク(・)シ(・)ョ(・)ン(・)になるんだ。折角手に入れた希少な品……奴はなるべく高く売り捌きたいだろうからな。丁度オークションの時期も近いし、奴がそこに出品する為に立ち寄る可能性は高いと思うぞ」

「あ、ありがとうございます! 次の街に着いたら、早速調べてみます!」

「ああ、そうすると良い」


 彼に頭を下げて感謝する。

 EDソードを取り戻すと言う目的に変わりはないが、どう動けばいい物かと頭を悩ませていたところに、彼の情報はまさに渡りに船と言えた。

 これで今後の方針をより明確に出来る……いや、そればかりか事態の早期解決も可能かもしれない。


(希望が見えて来たぞ! これなら、俺の息子が再び立ち上がる日も近いかも知れない!)


 明るくなりつつある未来に、表情がほころぶのを感じていると……ロードリックさんが、ふと気づいたように尋ねて来た。


「──そう言えば……キミ、財布は無事だったのか? こ(・)の(・)馬(・)車(・)の(・)乗(・)車(・)賃(・)は(・)払(・)え(・)そ(・)う(・)か(・)?」

「えっ……」


 彼の問いかけに思わず硬直する。

 そう言えば、成り行きで乗ってるけどこの馬車、当然有料なんだよな。

 彼の説明を聞くと、どうやら他の乗客は馬車に乗る前にチケットの購入で金を払っていたそうだが、俺のような途中で乗り込んだ乗客は、降りる街で乗っていた距離に応じた乗車賃を払う事になるらしいのだ。しかし……


(どうしよう……この国の通貨なんて持っている訳が無いし、【創造】で作る事も当然出来ないぞ……!?)


 通貨なんて、【創造】で絶対に作れない物の代表格だからな。

 でも今更『無賃乗車してました』なんて言えないし……


(──そうだ! こうなったら……!)

「あ、あぁ~……どうやら、財布も一緒に盗まれちゃった……カモ……?」


 俺の装備を盗んで行ったアイツに全ての責任を押し付けてやる。

 そう決めた俺は、服のポケットを探るフリをしながら、ロードリックさんに答えた。

 すると彼は少し考えるように顎をさすり、やがて探るような声でこう告げる。


「ふむ……──まぁ、盗まれたのなら仕方ない。今回は俺が払っておくよ。大した金額にはならないだろうし、奴の犯行を防げなかった落ち度もあるからな……だが、今度からは気を付けるんだぞ」

「す、すみません……!」


 まさかここまでお世話になった挙句、奢って貰う事になるとは……流石に申し訳なく、頭を下げる。

 いつか、何らかの形でお返ししなければ……そう誓っていたところに、ロードリックさんが心配そうに尋ねてきた。


「しかし……そんな状態で、グランゼリアへ向かえるのか? 流石に徒歩では厳しい距離になるが……」

「え? えっと……ロードリックさんみたいに、護衛という形で何とかできませんかね……?」

「いや、そうは言うが……今のキミは武器も持ってないだろう? そもそも、護衛を依頼する相手は基本的に信頼関係が既に築かれている傭兵や、ギルドの手配した冒険者だ。こういう言い方はあまりしたくないが、この国の者でもない旅人に回って来る仕事ではないぞ」

「う……」


 厳しい現実に声が詰まる。

 確かにそうだ。身分や人柄の保証が無い相手に、護衛を依頼するバカは居ない。

 彼が言う『ギルドの手配する冒険者』だって、いくつも実績を重ねて信頼を得たベテランに限った話だろうし、街に着いてすぐにその位置に俺が入り込むと言うのも不可能だろう。

 まさに、一難去ってまた一難。

 どうしたものかと頭を抱えていると……そんな俺を励ますように、ロードリックさんが馬車の進む先を示して告げた。


「まぁ、そうだな……幸か不幸か、オークションの時期まではもう少し余裕がある。それまでに、あの街で路銀を稼ぐと良い」

「! あれが──」

「ああ。この馬車の目的地、『ポルタム』の街だ」


 窓から身を乗り出して馬車の進む先を見ると、草原の緑を割いて伸びる街道の先に河を利用した天然の堀と、はね橋が見えた。

 その先、レンガ状の石ブロックが高く積み上がった外壁に構えられた大門は、俺達の乗る馬車を歓迎するように大きく開け放たれている。門前では五人程の甲冑姿の兵士が警護にあたっており、いかにも活気ある中継都市の玄関口といった佇まいだ。


「おお……っ!」


 感動に思わず声が漏れた。

 これまででもここが異世界だという事を理解するには十分な体験をしてきたが、こういう街を目にするとますます実感が伴ってくるものだ。


(なんというか……いよいよ始まった感じがする! 俺の異世界での人生が……!)


 まぁ、その前に俺の息子は終わってしまったのだがな。

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