第34話 一本釣り
「──うーん……」
アルシエル殿下から貸し与えられた王城の客室で、俺は謁見の間の顛末について考える。
『キュバス・パニッシャー』によって明確になった、王族達の性欲の有無。
EDソードを保持している派閥として最も可能性が高いのは、第三王子までが不妊となり、次期王位継承に一気に近づいたザインドル殿下の派閥の筈だ。
だから俺は、てっきりそのトップであるリッシ伯に調査の手くらいは入るものとばかり考えていた。だが……
──『鎮まれ。今日、この場で確認したい事は済んだ……──解散だ』
結局あの後、アルシエル殿下はリッシ伯も含めた全ての貴族、王族を帰してしまったのだ。
……正直、俺には殿下の考えが分からない。
(もしもリッシ伯がEDソードを持っていたら、今回調査もせず帰してしまった事で、証拠を処分する機会をみすみす与えた事になるんじゃないのか……?)
これでは折角抜き打ちで検査をしたメリットも半減だ。
一体、彼は何を狙っているのだろう……
「──どう思います? ロードリックさん?」
「うん? ……あぁ、アルシエル殿下の判断の事か。そうだな……俺は、今回はああするのが最前だったと思う」
あの後、俺の護衛にとアルシエル殿下からの指示でついて来たロードリックさんに尋ねると、彼の返答は予想だにしないものだった。
「えっ、でも──」
「確かにリッシ伯がEDソードを使った犯人だった場合、本格的な調査が入る前にEDソードを処分しようとするだろう。だが、相手は財務大臣も務める伯爵家……アルシエル殿下が産まれるより、ずっと前から王家に仕える大貴族なんだ。いくら第一王子といえど、『疑わしい』というだけで彼の屋敷を調べる訳にはいかない。明確な証拠がない限りな」
ロードリックさんの言わんとする事も分からなくはない。
今回リッシ伯が怪しいという流れになった根拠は、結局のところ他所からの流れ者である俺が持ち込んだ魔道具一つしか無い。確かに大貴族を糾弾するには、あまりにも弱いと言わざるを得ない。
しかし、そもそも『決定的な証拠を探る為の検査』ではなかったのか。
……そんな不満にも似た疑問を胸に、ロードリックさんの言葉の続きに耳を傾ける。
「他の貴族たちにしてもそうだ。今回の一件だけでは、本格的な調査には入れない。……だからこそアルシエル殿下は、あの場にいた全ての貴族に揺さぶりをかけたのだろう。後ろ暗い貴族が、何か大きな動きを見せることを期待してな。恐らく、彼らの動向はシーゼル侯が密偵なり何なり使って監視している筈だ」
「──その通りだ、ロードリックよ」
「! これは、シーゼル侯爵閣下。」
ロードリックさんの説明に、なるほどと納得した丁度その時。
小さなノックと共に部屋の扉が開かれ、謁見の間に残ってアルシエル殿下と今後の打ち合わせをしていたシーゼル侯が姿を見せた。
咄嗟に礼で迎えるロードリックさんに倣い、俺も慌てて頭を下げる。
「今後の動きについて、お前達にも話しておく。謹んで聞け」
そう前置きしてからシーゼル侯が話し始めた内容は、概ねロードリックさんが説明してくれた通りだった。
アルシエル殿下の揺さぶりで大きな動きがあれば、それを監視していたシーゼル侯がそれを報告。決定的な現場を押さえて本格的な調査に乗り出す。
また、動きがない間はアルシエル殿下が過去の資料や報告書を精査し、過去の情報から直接調査に踏み切れるだけの証拠をかき集める方針のようだ。
そして、最後に……
「──ケンジよ、お前にも役割がある。重要な役目だ」
「!」
俺の名が呼ばれた事で、嫌が応にも気が引き締まる。
「お前には、『現在EDソードを持っている者を見つけられる魔道具』の考案と【創造】を任せる。魔道具が完成し次第、報告せよ。物によっては、即座に調査に踏み切る」
「え……!?」
急な無茶振りに、一瞬頭が真っ白になる。
『EDソードの保持者を見つける魔道具』……中々の難題だ。
だって、そうだろう。そんな物が創れるのであれば、俺は最初から創っている。
『物を探したり見つけたりするアイテム』なんて、創作界隈ではあまりにもポピュラーだ。ダウジング然り、『ドラ◯ンレーダー』然り。
隠し場所や方法によっては、そういった魔道具が創造できたとしても、見つけられない可能性だってあるのだ。
「……安心せよ。殿下も『それ』が難題である事は承知の上だ。したがって、お前にはもう一つの役目が与えられておる」
「もう一つの役目……!」
今度は無理難題でない事を祈りつつ、シーゼル侯の言葉を待つ。
すると、彼の口から飛び出したのは──とんでもない役目だった。
「──はぁ……どうしたら良いんだ……」
シーゼル侯が去った後の客室で、俺は頭を抱えた。
確かに『EDレーダー(仮)』の【創造】に比べれば、告げられた『もう一つの役目』は無理難題とは言えないものだった。
しかし、それがよりにもよって──
「他の王族との交流って……!」
一般人に何を求めているのだろう、あの第一王子は。
こちとら王族と接する際のマナーなんて、何一つ身につけてないって言うのに。
「それに、ケンジが『魔道具を作れる』事を秘密裏に、且つ自然に伝えろ……とはな……」
「ホント、せめて狙いくらい教えてくれても良いのに……!」
【創造】については依然として秘密のようだが、『キュバス・パニッシャー』を作ったのが俺であると言う事は伝えて良い、とも言われた。
多分これも『揺さぶり』の一環なんだろうとは思うが、『誰に』『どう』伝わって欲しいのかも俺には分からないのだ。
マナーの問題もある。変な伝え方をしてしまった結果、打ち首だとか投獄だとか言われたら溜まったもんじゃない。
「──っていうか、そもそもどうやって王族と話す機会を作れって言うんだ!? 友達とかクラスメイトとは話が違うんだぞ!?」
やっぱりコレも無理難題なんじゃないか、と今更ながらに気付く。
そうだよ。そもそも王族が普段どんな生活してるかも知らないってのに、接点なんて作りようが……
(──! 待てよ……!?)
その時、脳裏に小さな引っ掛かりを覚えた。
──そして、気付く。どうして俺のような一般人に『こんな役目』が与えられたのか。
何故あの合理主義の塊のような第一王子が、『俺ならこの役目を果たせる』と考えたのか。
「っ! ロードリックさん、協力して欲しい事があるんですが!」
「協力……──まさか!」
俺の声に反応するロードリックさん。
流石はベテランの冒険者。今の一瞬で、俺の言いたい事を理解出来──
「駄目だぞ、脱走なんて!? そんな事すれば、本当に捕まるぞ!」
「違いますよ!? 一緒に考えて欲しい事があるんです!」
まるで意図が伝わってなかったロードリックさんに、改めて俺の狙いを伝える。
「──! なるほど……確かに君が今から王族に接点を作るなら、その方法が最も合理的かもしれん……」
「ええ。多分、アルシエル殿下もだからこそ俺にこの役目を。──でも、それならそうと言ってくれれば良いものを……」
最初から意図を伝えてくれていれば、頭を抱えることも無かっただろうに。
「──もしかしたら、殿下は俺たちが思っている以上に、君を買ってくれているのかもしれんな……」
「殿下が、俺を……?」
それは、俺が与えられた【創造】の力ではなく、『俺自身の価値を』と言う事だろうか。
……勘違いかもしれない。ロードリックさんの気休めなのかも知れない。
だけど、それでも──
(もしも俺自身の持っている何かに、あの殿下が価値を見出してくれたと言うのなら──)
我ながら単純な性格だと思う。
こんなんだから考えなしにEDソードなんて言う呪具を創り出し、とんでもない事件に発展させてしまうのだ、とも。
しかし、どうやら単純な俺は、もうすっかりその気になってしまったようだ。
「──やりましょう、ロードリックさん! 『フィレオノーラ殿下一本釣り作戦』、開始です!」
「開始は良いから、その無礼極まりない作戦名は撤回しろ! 本当に投獄されても知らんぞ!?」




