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第30話 第二王子『ゼグシオン』

(──いよいよ、この時が来てしまったか……)


 磨き上げられた大理石のような光沢を放つ石材のタイルが敷き詰められた大広間にて、俺は極度の緊張に苛まれながらその時を待っていた。

 大広間の最奥にはステージのように一際高い段差があり、金糸で複雑な刺繍が施された赤絨毯が布かれたその上には、これまた凝った意匠の玉座が一つ、窓から差し込む夕日に照らされる様に置かれている。

 ……そう、ここは謁見の間だ。

 そして玉座が見下ろすような位置には、精巧な彫刻が施された一本脚の細長い木製台座が俺達の手によって設置されていた。

 一般的なラウンドテーブルと比べて大分小さいその天板の上には、昨夜俺が創った魔道具が置かれており、それを黒い布が覆っている。


(果たして、上手く行くだろうか……)


 緊張にバクバクとうるさい心臓を落ち着けるべく、俺は自分の置かれた状況を改めて脳内で振り返ることにした。




◇


 ──昨夜、第一王子アルシエルの執務室にて。


「他の王子・王女を招集……ですか?」

「お前の創り出したこ(・)の(・)魔(・)道(・)具(・)を最も効率的に使うには、これが最適だ。明日、皆の教育や訓練終了の時刻に合わせて謁見の間に招集をかけ、対策や抵抗を許さずに一斉に調べる」


 俺が新しく創り出した魔道具を手に、アルシエル殿下が今後の動きを決定する。

 彼の手にある魔道具には、今は黒い高級そうな生地がかけられており、傍からは球状の輪郭しか分からない。

 しかし、その効果については既にシーゼル侯が身をもって教えてくれていた。


「で、ですが……殿下……! 招集には、各王子・王女派閥の貴族や……護衛が随伴する筈……! 彼等は、どうするお積もりで……!?」


 ……もっとも、その所為で現在彼は額に脂汗を浮かべ、言葉もしどろもどろになり、時折魔道具を生み出した俺に恨みがまし気な視線を向けて来ているのだが。

 しかし、アルシエル殿下はそんな彼の様子を気にかけるでもなく、その質問に淡々と答える。


「派閥貴族や護衛を引き離せば、当然警戒心を抱かせる事になる。多少の巻き添えは、致し方あるまい。それに……王族以外にはEDソードが使われていないという保証もないからな」

「ぐむぅ……っ!」


 彼の『巻き添え』という発言に先程の出来事を思い出したのか、シーゼル侯の表情が歪む。

 その反応に、つい俺の口から問いが漏れてしまう。


「……そんなに痛いです?」

「当然だ! ──っ、痛ぅ……! まったく、何と言う物を生み出してくれたのだ、貴様は……!」


 半ば食い気味に返される答えと、充血した視線。

 元々あの盗人相手に使う予定の物だった為、今回創った魔道具は当初の想定より大分スケールダウンしているのだが、それでもここまでの威力とは……


「だが、その分誤魔化しは効かぬ。魔道具の使用、及び事情の説明は私がする故、お前たちは私の政務中に準備を整えておけ。召集は夕刻だ。それまでには間に合わせ、お前達も謁見の間で待機せよ」

「は、はい……!」




◇


 幸い、必要な物の準備はシーゼル侯が手配してくれたため、俺達はそれを設置するだけで良かったのだが……


(これから王族全員に会うと考えると、待ってるだけで緊張感がヤバいなぁ……!)


 どうやら王子や王女は将来この国の役に立つ為、厳しい訓練や勉学に励む毎日を送っているらしい。

 特にアルシエル殿下は病に伏せった王の代わりに、一部の政務にも本格的に携わっているらしく、そう言った面からも既に次期の王は彼で間違いないと言う風潮にあったようだ。

 ……EDソードによって、彼が不妊になるまでは。


(ホント、要らん事しちゃったなぁ、過去の俺……)


 これ以上、王子やこの国に迷惑はかけられない。

 せめて彼等を待つ今の内に、何かしておくべき事は無いかと思考を巡らせた俺は、一つ思い立ちシーゼル侯に問いかけた。


「──あの、侯爵閣下。質問しても良いでしょうか?」

「……なんだ?」


 俺の直ぐ斜め前で直立するシーゼル侯は、問いかけにチラリと視線を向ける。

 ……見るからに不機嫌そうだ。昨夜のア(・)レ(・)をまだ恨んでいるのかもしれない。


「今の内にアルシエル殿下を含む王子・王女の為人(ひととなり)や、接する際の注意点を伺っておきたいのですが……」

「! あぁ……そうだな。お前が他の王子達に接する機会は無いと思うが……万が一にも殿下の顔に泥を塗る事が無いよう、最低限は教えておくべきか。先ず──」


 何故だろう。彼の表情からは『今その気遣いが出来て何故昨夜は……』と言いたげな気配を感じる気がする。

 その後、王子達の到着を待つ間、俺はシーゼル侯からそれぞれの王族の特徴を聞く事が出来た。




「──準備は出来ているようだな。良し、護衛の配置を決めよう」


 シーゼル侯から教えて貰った情報を整理していると、謁見の間の扉が開かれ、アルシエル殿下が姿を見せた。

 招集をかけた本人である彼は、先に謁見の間で他の王子達を待つ為に早めにやって来る事になっていたので、彼が最初に現れることは想定通りだ。


──『第一王子であるアルシエル殿下は、文武共に秀でた素晴らしい王子である反面、やや感情の機微に疎いところがある。合理性を突き詰めたような判断基準を持っておられ、ご自身に対しても国にとって有用かどうかで考えるお方でな……ご自身の『不妊』が発覚した際、直ぐに自ら継承権を捨てようとした際は必死に説得した物だ。他派閥の貴族たちからは人間的な情が薄く、やりにくい王子という印象を持たれているようだな』


 謁見の間に到着するや否や、魔道具の置かれた台座の位置を確認し頷いた彼は、てきぱきと引き連れて来た騎士や冒険者の護衛に指示を出していく。

 そんな彼の姿に、シーゼル侯から受けた解説の声が自然と重なった。

 能力に全振りした結果、情に薄くなってしまった王子か……


「──ん? どうした、ケンジ。殿下に何か用があるのか?」

「! ロードリックさん。貴方も殿下の護衛に?」

「シーゼル侯から引き続き依頼を請けてな。おかげでまた『この甲冑』を身に着ける事になったと言う訳だ。もっとも、今(・)回(・)は(・)君(・)も(・)そ(・)う(・)ら(・)し(・)い(・)が」


 声をかけてくれたロードリックさんは、いつかディープ・カレントで見た時と同じ、シーゼル侯の紋章が輝く甲冑を着ていた。

 そして、それは俺も同じだ。

 他の貴族や王族と会うのだからと、ドレスコード代わりにシーゼル侯から渡された甲冑を身に着けている。

 着心地や見た目から、恐らく相当高価な物なのだろうと言う事が自然と伝わって来る逸品だ。……それが余計に俺の緊張を煽ってしまっている訳だが。


(でも、比較的身分の近い知り合いが居てくれるのは嬉しいな。少しだけ、気分が楽になった気がする……)


「──あ、そうだ! 今の内に伝えておきたい事が。そこのテーブルに乗っている魔道具なんですが……」


 味方だと分かっている人には先に説明しておいた方が良いだろうと考え、ロードリックさんにだけは予め今回使う予定の魔道具について情報を耳打ちすると──


「き、君は……また、なんて恐ろしい物を……!」


 ……説明を聞いたロードリックさんの視線を、俺はきっと忘れられないだろう。




 ──それからしばらくして、再び謁見の間の扉が開かれた。


「兄上、今回の急な招集……もしや、例の一件で何か解ったのか?」


 張りのある力強い声が謁見の間に響き、自然と視線を集める。

 やって来たのは、やや赤みが強いオレンジ色の髪を立たせた男性だった。

 彼は謁見の間に踏み入るや否や、豪快な足取りでアルシエル殿下の元に近付いていく。


(あの顔立ちは──!)


──『第二王子「ゼグシオン」殿下はアルシエル殿下に継ぐ才を持つが、殿下と異なり感情的になりやすい面も持つ王子だ。アルシエル殿下の努力と才を尊敬していると公言しており、第一王子と第二王子という関係でありながら本人同士の間に確執が無い為、話が通じやすい王子でもあるのだが……お前の口からEDソードの事を伝えるのは避けた方が良いだろうな』


 シーゼル侯の注意を思い出し、なるべく気配を消すように努める。

 彼のガタイはアルシエル殿下より年下とは思えない程鍛え抜かれている事が一目でわかる程であり、万が一にも感情的に殴られる事があればただでは済まないだろう。

 彼はアルシエル殿下に今回の召集の理由を尋ねていたようだが、『皆が集まり次第説明する』という殿下の一言に一先ず納得したようだ。そのまま殿下の隣に陣取り、その周囲を彼の連れて来た貴族や護衛の騎士達が固めた。


(これで二人……後は確か、王子が四人と王女が二人だったな……)


 他の王子・王女も彼のように話が分かると良いのだが……

 ──まぁ、シーゼル侯の説明からして、それは難しいだろうな。

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