第22話 生き残る為の取引
「──と、言う事なんです」
ここまでの経緯を一通り説明し終え、彼等の反応を伺うが……
「女神より授かった、【創造】の力……?」
「……虚言でなく、妄言で取引をしようという事か?」
「いや、そんなつもりじゃないですけど……」
ある意味予想通りというか、俺の話に半信半疑……いや、一割でも信じてくれていればラッキーといった感じだった。
(まぁ、直ぐに信じて貰えるとは思っていない。こういう時は、証拠を見せるに限る)
と言っても、不用意に【創造】の能力でアイテムを創るのは避けたい。
条件の厳しさゆえに一発で成功する確信も無いし、成功したとしてそのアイテムがまた新たなトラブルの原因になる事も考えられる。
そこで、俺は──両手に嵌めていた手袋を外した。
バリバリとマジックテープ特有の音が部屋に響き、何事かと二人の視線が集まる。
「えっと……証明の為に、先ずこの手袋を見て欲しいんです」
そう言って俺は、正面に座るシーゼル侯にサイフ手袋を手渡す。
彼は手に取ったそれの材質を調べるように触りながら、様々な方向から構造も含めて一通り確認する。
「……何の変哲もない手袋だな。奇妙な留め具と、品が無いデザインに目を瞑ればだが」
何やら失礼な評価を貰ってしまったが……俺は敢えてそこには目を瞑り、要件を伝える。
「実は、その手袋も俺が【創造】の力で創ったアイテムなんです。手に嵌めて貰っても良いですか?」
「…………これを? 儂が?」
ただ手に嵌めてくれと言っただけなのに、驚愕に目を見開くシーゼル侯。
ダサいからって、そんなに動揺しなくても……
とは言え、庶民の立場で大貴族に無理を言うのも怖いし、ここは──
「えっと……侯爵閣下がお嫌でしたら、確認はロードリックさんでも……」
「──えっ!? ……いや、俺はほら。この通りガントレットを着けているからな……」
「……」
いや、外せばいいじゃないか。そんな物。そんなに嫌なのか。
少しの間、気まずい沈黙が流れる。
こっちとしては二人の内のどっちかには確認して貰わないと、能力の証明のしようが無いのだが……
「…………まぁ、良い。確かに『呪いを解く方法を申せ』と言ったのは儂だ。……儂がやろう」
悲壮な決意の表情で、俺のサイフ手袋を手に嵌めるシーゼル侯。
そんなに覚悟がいるデザインなのか。俺はずっと嵌めていたのに。
見様見真似と言った雰囲気で、両手にサイフ手袋を嵌めたシーゼル侯は、感覚を確かめるようにぐっぱぐっぱと拳を開閉する。
……確かに、傍から見るとものすごくダサいな。この手袋。
「──これで、どうするのだ? 何も起こらんのなら、名誉棄損で処刑ものだぞ」
「えっ、──あっ! そうですね、えっと……それはサイフになっていまして、手を握って取り出したい金額をイメージすると、拳の中にその分のお金が現れるという魔道具なんです」
「ほう……?」
俺の説明通りに拳を作り、数秒程念じて開くシーゼル侯。
これで握った手の中には硬貨が出現している筈なのだが……開かれた手の平には、何も出てきていなかった。
「──何も、起こらんようだが……?」
一段と低く震える声が俺の耳に届く。
シーゼル侯の顔色を伺えば、そこには初めて見せる怒りの表情があった。
「え……!? そんなはずは……」
慌てて原因を突き止めるべく、思考を回す。
(なんで何も出てきてないんだ!? 念じる言葉は日本語じゃないといけないとか、制約はつけてないと思うけど……!)
もしも魔道具の不具合だった場合、俺は王家への反逆云々の前に、名誉棄損で処刑されてしまう!
必死で考えた結果、俺は一つの可能性に辿り着いた。
(──あ! もしかして……)
「あの……因みにどのくらいのお金を出そうとしましたか?」
「ん? ……一ガルだが?」
あぁ……やっぱり……
「えっと……さっきも言った通り、それは俺の『財布』なんです。中に入っている以上の金額は、出せません」
「……ふむ、道理だな。ならば、一リルなら出せるのかね?」
「一応、ゼル硬貨も少しは出せます……」
貴族の金銭感覚が庶民とかけ離れているのを失念していた。
彼等にとって『金』とは文字通りの金貨──ガルを示しているのだ。
その事を捕捉すると、彼は少し考え……再び拳を握った。
「……わかった、もう一度やってみよう」
拳を作り、念じて開くシーゼル侯。その掌には……ゼル硬貨が一枚、確かに現れていた。
見守っていたロードリックさんが、「おお……」と感心したような声を小さく漏らす。
「ほう……確かに、拳の中に現れたのを感じた。見た事の無い魔道具だが……──念のために、鑑定させて貰うぞ?」
「鑑定、ですか?」
俺の返答も待たず、指で作った輪の中に作った『虫メガネのレンズに似た光の膜』を通して、手袋の検分を開始するシーゼル侯。
彼の代わりに俺の問いに答えてくれたのは、ロードリックさんだった。
「侯爵閣下のような高い身分の方や、一部の豪商なんかは習得している事も多い、高度な魔法の一種だよ。物の劣化具合や作られた時期、薬効を調べたりできるんだ。魔道具に使えば、効果もある程度分かるらしい」
なるほど……ゲームとかでよく見る魔法だな。
自分で体験したとはいえ、更に念入りに効果を調べるのは彼の性分だろうか。
ともあれシーゼル侯の意図を理解した俺は、サイフ手袋の鑑定が完了するのを待ち、頃合いを見計らって話を再開した。
「……俺が創れるのは『その時点で、この世界に概念すら存在しない物』に限ります。ですから、その手袋はこの世界にたったの一対しかない事は保証できます。……そして……」
「──EDソードを創ったのも、お前だと言う事だな」
「……はい」
「…………ふぅ……それで、取引か……」
シーゼル侯の確認に頷いた俺に、彼は深いため息を吐いた。
マッチポンプのような形になっているのは分かっている。しかし、これしかないのだ。俺が生き残る道は。
「──割に合わん取引になるぞ」
「分かってます」
「いや、分かっておらん。お前にとって、割に合わん取引だと言うのだ」
「え?」
……どう言う事だろうか。
シーゼル侯の口ぶりでは、まるで『損をするのはお前の方だ』とでも言いたげに聞こえる。
俺の表情から、そんな疑問を見抜いたのだろう。彼はサイフ手袋を外しながら、説明を始めた。
「もしも、この一件がお前の【創造】によって解決したとしよう。その場合、確かにお前の命は保証されるだろう。しかしそれは、恩赦や同情からではない。処刑という命の危機に晒されたお前が、咄嗟に何を創ってしまうか分からないからだ」
バリバリといううるさいノイズに気を取られながらも、彼の言葉に耳を傾ける。
「国を亡ぼす怪物か、毒か、或いは呪いそのものを創ってしまうかもしれん。……それ程のリスクを背負う時点で、安易な処刑は出来ぬ。ならばこの場合、国はお前をどうすると思う?」
「……どうなるんですか……?」
「軟禁だ。お前は自由な外出の権利を奪われ、代わりに何不自由のない生涯を保証される事になる。そう……何も創る必要のない、平穏な一生をな」
「……」
返却されたサイフ手袋を受けとり、目を落とす。
……この手袋は、俺がこの先の長い旅の中で金を盗まれないようにと、夜更かししてまで考えたアイテムだ。
これもEDソードも、確かに『俺が旅をしなければ』創られる事も無かっただろう。
「そして、いざ本当の厄災がこの国に降りかかった時の為の予防策となるだろう。未知の疫病、未知の呪い、未知の毒……国が恐れるそう言った脅威に際して、お前の能力は最も輝く。しかし、旅人としてのお前は死んだも同然だ。それを『助かった』と思えるかどうか、儂には保証できん」
神妙な声で、彼は俺の目を真っ直ぐに見つめる。
貴族という立場にいる彼に、旅人を名乗る俺がどう見えているのかは分からない。だけど──
(……正直……聞いた感じだと、そこまで悪い生活でもないんだよなぁ……)
要するに『一生養ってやる』宣言だ。それも国のお墨付きで。
前世のニート達にこの条件を持ちかけたら、間違いなく首がちぎれるんじゃないかって勢いで頷くだろう確信がある。
(まぁ……確かに、折角の異世界の冒険がここで終わるって思うと、残念に思わなくもないけどな……)
とは言え、処刑ルートを脱することが出来るのなら、躊躇なんかしてられない。
「分かりました。俺が王子達の不妊を治すアイテムを、必ず創って見せます。ただし、EDソードの破壊を見届けてからになりますが……」
「……良いだろう。明日、王城へお前を連れて行く。今日はこの宿に泊まれ。部屋は儂が取ろう」
──こうして、長いようで短かった俺の旅は、終着点である王城へと収束していくのだった。




