第1話 はじめての【創造】
「……作れない? ただの剣が? チート能力なのに?」
そんなバカな。ただの剣すら作れないような能力で、一体何が作れるというのか。
ポカンと声を漏らした俺は、続いて『もしや』と地面に触れる。
(──そうだ! 創ると言っても、無から有を生み出す能力じゃないのかもしれない。『材料が必要』なんて、よくある縛りじゃないか)
「地中にも金属はあるだろうけど、ここはもっと確実に作れる物で……まぁ、適当な壺でも作ってみるか──【創造】!」
最初に作る記念すべきアイテムとしては微妙だが、とりあえず一つ作ってみたい。
そう思い、能力を行使するが……
『このアイテムは【創造】で作れません』
「……えぇ?」
再び脳内に響くブザー音に首をひねる。
今度は材料も意識してみたし、構造も単純な物。壺のイメージも固めていたし、条件があるとしても大抵の物は満たしている筈だ。
「何だ? もっと複雑な条件があるのか?」
少なくとも頭ん中にブザー音が響くって事は、能力は使えている筈なのだが……
「……こうなると、流石に説明書が欲しいな。さっきの女神に、能力について詳しく聞いておかなかったのはマズかったか?」
(【創造】で『【創造】の説明書』を作れればいいのに……)
頭の中でそう意識した瞬間だった。
──ポスッ。
「……ん?」
軽い音を立てて、目の前の地面に虚空から一冊の小さな冊子が落ちた。
拾い上げて表紙を見てみると──
『【創造】の説明書』……日本語でそう記載されていた。
「……作れちゃったよ。ホントに」
しかし、記念すべき最初に【創造】したアイテムがコレか……
内心で少し残念に思いながら、ページを開いて内容に目を通す。
(ふむふむ……特に原材料を用意する必要もなく、無からイメージだけで作れるのか。貰っといてなんだけど、とんでもないチートだな、オイ……)
どうやら剣や壺が作れなかったのは、材料不足とかではないらしい。
じゃあ、何が原因だったのか。それを理解するべく、説明書を読み進める。
……そして、そこに記載されていた【創造】のとんでもない『条件』に、俺は目を見開いた。
──『【創造】で作れる物は、その時点で貴方が見た事が無く、また世界にも存在しない物のみです』。
「は……、はああぁぁっ!?」
(世界に存在しない物しか作れない!? 【創造】って……──いや、確かにそう言う意味だけども!)
そんな条件じゃ、結局何も作れないのと同じじゃ……いや、待てよ。
一瞬脳裏に過った悲観的なイメージに、疑問を持つ。
「それなら、なんでこの説明書は作れたんだ……?」
説明書は読んだ事は無いが、しかし見た事はある。
そもそも、説明書は広義で見れば『本』だ。現代日本に生きていて、本を一度も見た事が無いなんてありえない。つまり──
「『【創造】の説明書』は、あくまでも『【創造】の説明書』って事か……」
多少の抜け穴はあるのだ。……そうなれば、話は早い。
「要するに、空想上の武器とかなら作れるんだろ! ──『聖剣エクスカリバー』を【創造】!」
ただの剣は『この世界にあるから』作れなかった。ならば、『この世界に無いだろう剣』を作れば良いのだ。
しかし……
『このアイテムは【創造】で作れません』
「えっ……あるのか? 『聖剣エクスカリバー』……」
一瞬まさかの可能性に硬直する。……だが、直ぐにそれがあり得ない事に気付く。
(そうだ、あり得ない。だって『エクスカリバー』は固有名詞! 日本語……と言って良いのかは分からないが、俺の居た世界の言葉だ! 異世界に同じ名前がある筈が……っ!? ま、まさか──)
唐突に思い至った可能性。それは──
「『見た事が無い』って……例え創作の中でも、その概念を見た事があったらダメって事か……?」
【創造】という規格外の能力が持つ、規格外の制限の重さだった。
それから様々な検証をしつつ、装備の【創造】に悪戦苦闘する事、数十分。
「──ふぅ……何とか装備は整ったな……」
【創造】の説明書を読み終えた俺は、何とか条件を満たした装備を作り終え、その一式を身に纏っていた。
今の俺の装備をゲームのステータス風に表現するのなら、こんな感じだろう。
武器:斬る度に縮む剣
盾 :硬い癖にやたらと痛がる盾
鎧 :鳴らした音が模様になる鎧
靴 :無駄に土煙を巻き上げる靴
「なんだこのイロモノ……」
まさに地獄のようなファッションコーディネートだ。我ながらとんでもない仕上がりに愕然とする。
でも仕方がないのだ。どれだけデザインを奇抜にしても、何の能力もない装備はありふれていて作れない。
そして俺が思いつく『強そうな能力』は、大抵創作物で見た事があるようなものばかりだった。
かと言って、何の装備も無しに魔物がいる異世界を闊歩するなんて考えられない。せめて装備品の一式くらいは創っておかなければ。
そうして出来上がったのが──このバカみたいな装備群だった。
「……何とか金を稼いで、街でまともな装備を買えるように頑張ろう……──ぅおおっ!?」
そう意気込んで一歩踏み出すと、能力の所為で靴の下からとんでもない量の土煙が吹き上がり、驚いた俺はついバランスを崩してしまう。
(ま、まずい!)
俺が立っていたのは中々に小高い丘だ。
斜面もそれなりに急だったこともあり、転倒の勢いは中々止まらず、俺はそのままゴロゴロと坂を転げ落ちて行く。
『ぐああ! 痛ってええぇぇぇッ!!』
「うるせえなぁ、この盾!!」
至近距離で『硬い癖にやたらと痛がる盾』が叫ぶ。
草が生い茂った坂なんて対して痛くねぇだろ、とツッコミを入れながら数秒ほど。麓を覆う森の中まで転がり落ちた俺は、鎧をパンパンと叩いて土を落としながら立ち上がった。のだが……
『痛てぇ……痛てぇよぉ……骨折れたぁ……!』
「盾に骨なんてねぇだろ……」
……どうしよう。創ったばっかだけど、この盾もう捨てたい。
「ったく……──ん? ……あっ、しまった!?」
何の気なしに見下ろした鎧には、先程まで無かった無数の模様。
『ゴロゴロ』『ぐああ! 痛ってええぇぇぇッ!!』『パンパン』『ガチャガチャ』『ドタドタ』……そんなオノマトペが、カラフルな色彩で至る所に描かれていた。
(ダッッッッッセェ……!)
たった一歩踏み出しただけでこのありさまだ。これで人前に出るのかと考えると、ちょっと泣きそう。
不幸中の幸いは、多分この文字をこの世界の人達は読めないと言うことくらいか……
(っていうか、盾の痛がりまで『音』判定するなよ……)
「……装備、一新しようかな……」
流石にこんな装備で異世界を歩きたくない。
折角作った装備だが、この辺で新しい装備を作り直そう……と、思ったその時だった。
「──きゃああぁぁぁぁーーーーーッ!!」
森の中から、女性の悲鳴が聞こえた。
「! これは……魔物から美少女を守るテンプレ展開か!?」
ようやく異世界転生主人公っぽい活躍が出来るのでは……そう考えた俺は、一目散に声の方へと駆け出した。
……靴の能力で、とんでもない量の土煙を巻き上げながら。




