プロローグ 転生は【創造】と共に
「──はぁ……」
純白のテーブルに頬杖をつき、一人の女性がため息を吐く。
白磁のような滑らかな素肌。銀糸のような輝きを発する長髪と、それと同じ白銀の瞳。
全てにおいて白いと言う印象を与える女性の視線は、テーブルの中央の水盤に向けられていた。
水盤を見れば、そこには様々な光景が映っていた。
賑やかな街を行き交う人々の営みや、深い森の中で剣を手に魔物と戦う男女の姿。規律正しく行進する甲冑の騎士達もあれば、どこかの洞窟で自由に暮らす粗野な盗賊の姿まで。
……それはまさに、とある世界の今の姿を映し出す『覗き窓』でもあった。
「はぁ……」
女性はその光景を見て、再びため息を漏らす。
世界の在り方を嘆いている訳ではない。未来を憂いている訳でもない。
……この世界がもう直ぐ終わると言う事実が、ただただ彼女にとっては残念だったと言うだけだった。
「──おやおや、どうしたのかな? そんなにため息を吐いて」
「別に、何でもありませんわ」
そこに通りがかった別の女性が気さくに声をかけたが、ため息の女性はそんな彼女に視線も向けずにそっけない態度を返す。
気さくな女性は、そんな彼女の態度に悪びれる事も無く背後に回り込むと、肩越しに水盤を覗き込んだ。
「あー……この世界、もう直ぐエネルギー切れなんだ。貴女が最初に作った世界だっけ?」
「……えぇ。世界の寿命という奴ですわ」
ため息の女性にとって、この世界は試験的に作っただけの物。当初は特に思い入れも無く、だからこそ寿命はそこまで長く設定していなかった。
……しかし、その後いくつもの世界を作ってきた今、この世界は彼女にとって特別な物になっていたのだ。──もう直ぐ滅んでしまう、この世界が。
「なるほどね~……確かに今の貴女が作ってる世界って、真面目って言うか堅苦しいっていうか、面白みに欠けるもんね」
「うるさいですわね。分かってますわよ、そんな事……」
技術やノウハウを身に付ける度、自由な発想や大胆な設計が難しくなっていった。彼女は自分のこれまでを、そう分析していた。
だからこそ、この最初の世界は特に大切な宝だった。住んでいる人々の表情さえも、キラキラと輝いて見えた。
「──ねぇ、教えてあげよっか? 世界の寿命を延ばす、裏ワザ」
「裏ワザ……?」
ため息の女性の目が、初めて気さくな女性へ向けられた。
胡散臭い物を見るような、しかし縋りつくような彼女の視線に気を良くした気さくな女性は、人差し指をピッと指揮棒のように立てて語り始めた。
「貴方の作った別の世界の人を、その世界に送り込むんだよ。『転生』とか『転移』とか、方法は何でもいいからね」
「……? そんな事をしても、世界を維持するエネルギーには何の影響も……」
「話はここから! その際に、送り込む人に『強力な能力』を与えるんだよ。世界を作るのと同じように、エネルギーを注いでね」
気さくな女性は説明を続ける。
送り込まれた人間が与えられた力を振るえば、その度に世界にエネルギーが増えるのだと。
そして、不幸な事故でも寿命でも、その人間がその世界で死ねば、解放されたエネルギーの全てが世界に還元されるのだと。
「そんな方法が……」
「だから、与える力は強ければ強いほど、世界のエネルギー的には良いのさ。ただ、与える能力には、ある程度の制限は設定した方が良いかもね。好き放題に使われると、それはそれで世界が滅茶苦茶にされちゃうし」
「なるほど……──大体わかりましたわ。教えて下さり、感謝します」
ため息を吐いていた女性は、早速裏ワザを実行するべく水盤に映る世界を切り替える。
やがて、彼女の目に一人の人物が映った。そして……
◇
「──ん? あれっ、どこだここ?」
気が付くと、俺はさざ波一つ立たない水面に設置された白いラウンドテーブルを挟み、全体的に白い印象を受ける美女と向かい合わせに座っていた。
周囲を見れば、そこにあるのは空を映し出す水面が作り出す水平線だけ。絶景として有名なウユニ塩湖のような光景だった。……行った事は無いけど。
そのまま足元に視線を落とすも、水面の底は見えない。一体俺が今座っている椅子は、どうやってこの水の上に安定しているんだろう。
……そんな事をぼーっと考えていると、向かいに座っていた美女が口を開いた。
「境健二さん、この度は不運でしたわね……」
「…………──えっ?」
「享年二十二歳、現代日本においては早すぎる天寿でした」
畏怖すら感じてしまう程の美声に一瞬理解が遅れたが、この女性の発言を纏めると、つまり──
「……えっ? 俺、死んだの……?」
「はい。屋根を突き破った落雷が枕元のノートパソコンに直撃し、貴方もそのまま……」
残念そうに目を伏せて俺の死因を語る彼女。
何かの小説で見た事があるこの状況からすると、この女性は女神様ということなのだろうか。
確かに現実離れをした美貌に美声だが、何よりも……
(すげぇ……お嬢様言葉だ。こんな口調で話す人、リアルに居たんだ……!)
我ながら変な所に感動してるなと思いつつ、一旦現状の把握に思考を切り替える。
(──良く分からん内に死んで、どことも知れない場所で女神と会うってなると……まぁ転生か?)
懐かしいな。そう言えば中学生の頃、こんな設定の小説を書いた覚えがある。
転生で貰ったチートで無双する、よくあるタイプの内容だった。評価はまぁ……お世辞にも高いとは言えなかったな。
あの小説と同じ流れなら、この後俺は──
「チート貰って転生するって感じか……」
「……話が早いですわね。私としても助かりますわ」
「いえいえ。ちなみに、異世界ってやっぱり魔物とか魔王とか居るんです?」
「貴方の想像するような魔王は居ませんが、少なくとも魔物は居ますわね」
居ないのか、魔王……って事は『勇者になれ』みたいな展開もなさそうだな。
というか、案外女神様に対しても、こういう俗っぽい概念ってあっさり通じるもんなんだな。……まぁ、そう言う夢ってだけなのかも知れないけど。
(それにしても、異世界転生か……! ちょっと面白そうだし、折角なら楽しんでみるか!)
こういう時はとりあえず、どう言う能力が貰えるのか確認しないとだよな。
「もう一つ聞きたいんですけど、貰えるチートって自由に選べたりします?」
「いえ、私が思う『貴方にピッタリの能力』を贈らせていただきます」
「へぇ~、どんな能力です?」
「【創造】と言って、イメージした物を作り出す能力です」
おお……早速ぶっ飛んだチート来たな。
名前を聞く限り、何でも作れる系のチートで間違いない。
色々と楽も出来そうだし、夢で使う能力としては上等だろう。
「気に入っていただけたようですわね。……詳しい説明は必要ですか?」
「いや、説明は大丈夫っす。さっさと異世界に送っちゃってください」
名前で大体わかるしな。
俺はゲームもチュートリアルは読み飛ばす派だったし、説明書も開いた記憶はない。こう言う物は、大抵触ってみれば何とかなるものだ。
「そうですか。……ならば、せめて身体能力や言語翻訳くらいは、サービスさせていただきます。──では、貴方の第二の人生がせめて良き物になりますよう、祈っておりますわ」
そんなそれっぽい言葉を女神様が口にした瞬間、俺はふっと意識を失い……
──気が付けば、爽やかな風が吹き抜ける丘に、一人で立っていた。
「……いや、いくらなんでも唐突過ぎるだろ」
もうちょっと雰囲気とか作れなかったのだろうか。服とかも普通のシャツとスラックスだし。
誰に向けたものでもないツッコミを入れながら、辺りを見回す。
足元には、風の動きで靡く緑色の絨毯。見上げれば、どこまでも続く蒼天を征く雲の群れ。
周囲は森になっているようで、鬱蒼と生い茂る木々が俺の立つ丘を取り囲んでいた。
(──ここは……森の中にある丘って感じか? 探せば現実世界にも、似た場所はありそうだ。だけど……)
深く息を吸うと、冷たく澄んだ森の匂いが肺を満たす。
頬を撫でる風も心地好く、現実と遜色ないリアリティを与えてくれた。
「こんな夢を見れるなんて、俺の想像力もまだまだ捨てたもんじゃないのかもな……」
そう呟いて、はたと思い出す。
「そう言えば、【創造】ってチート貰ったんだっけ。とりあえず剣でも作ってみるか」
不思議な事に、能力の使い方は自然と理解できた。
俺は正面に手を翳し、作りたい物を思い浮かべる。そして──
「【創造】!」
別に声に出す必要はないらしいのだが、初めての【創造】だからな。ちょっと気合を入れてみた……のだが……
『このアイテムは【創造】で作れません』
「……は?」
そんなメッセージが、『ブブー!』というブザー音と共に脳内に響き渡ったのだった。
連載形式のオリジナル小説二作目です!
現在書き溜めている分のストックが無くなるまでは毎日投稿、その後は不定期投稿(週一以上は投稿予定)になると思います!
完結済みの前作『帰る世界を間違えた!?』ともども、よろしくお願いいたします!




