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第17話 不穏な噂

今回は少し短めです

 俺が『黄金運河』にてカタログを買った日から、早三日が経過した。

 裏オークション『ディープ・カレント』当日を明日に控えたこの日……姿を消したという盗人の情報を探していた俺は、立ち寄った酒場で気になる噂を耳にした。


「──種無し!? あの、第一王子がか!?」

「そう言う噂を聞いたんだよ。俺も耳を疑ったぜ……」


(『種無し』……って、要するに“子を成せない男”って意味だよな……?)


 彼等の会話から飛び出したその内容が他人事とは思えず、ついつい耳をそばだてる。


「マジかよ……だって、確か今の王って病で……!」

「あぁ、生前戴冠も近いって話だったよな。そんな時期にこんな……大丈夫かね、この国は……」

「もし国内が荒れそうなら、今の内に隣国に渡った方が賢明か……?」

「と言っても、まだ噂が正しいかどうかだって──」


 二人の冒険者のやり取りに、俺は嫌な予感を覚えた。


(これって、まさか……前にロードリックさんが言ってた……!?)


──『万が一、王族が被害に遭ったら、国の存続の危機だからな』


 彼の神妙な表情と言葉が脳裏をよぎる。

 オークションのカタログに載っていないEDソードは、あの盗人と共に行方知れずだ。もしも万が一、この一件に関わっていたとしたら──


(……いや、まだそうとも限らない! さっきの冒険者も言っていたように、そもそもこの噂自体が間違いという可能性もある!)


 インターネットも無いこの世界では、情報伝達の速度も正確さも現代とは比べ物にならない程劣っている。

 ならば第一王子の一件だって、E(・)D(・)ソ(・)ー(・)ド(・)が(・)盗(・)ま(・)れ(・)る(・)前(・)に(・)発(・)覚(・)し(・)た(・)事(・)態(・)である可能性も高い筈だ。ならば──


「……すみません。今の会話、チラッと聞こえてしまったんですが──」


 先ずは情報収集だ。







「──まぁ……今のところ手に入るような情報はこんなもんか……」


 就寝前。借りた宿のベッドに腰掛けながら、【創造】の説明書の余白に書き込んだ内容に目を通す。

 そこにはこの一日で聞いた第一王子の噂を始めとして、その真偽を確認するのに必要な情報がメモとして書き込まれていた。


(例の王子の噂、既に色々な場所で耳にするくらいには広がっていたな。関心が高い内容とは言え、いくら何でも拡散が早すぎる気もするが……)


 こちらの世界でも、こういうスキャンダルめいたゴシップが広まるのは早いという事なのかもしれない。

 生憎と噂の出処は掴めなかったが……どうやらあの噂が広まり始めたタイミングは『昨日の昼』辺りかららしい事が調査の末に分かったのは、一つの収穫と言えるだろう。


(噂が広まったのはごく最近……そして王都とグランゼリアの距離は、馬車で一日半もあれば着くくらいの近さ……か)


 スラムのボスに教えて貰った『盗人が消息を絶った日』から、既に六日が経過している。

 EDソードが王族に使われてしまった可能性は、残念ながら否定しきれない。


(──明日は『ディープ・カレント』当日、か……一応、実際の出品物はこの目で確認しておきたいよな……)


 もしもそこにEDソードが出品されていれば、話はかなり早くなる。

 勿論、貴族との競り合いに勝てるとは思っていないが、競り落とした相手さえ確認できれば──交渉の当ては【創造】出来る。

 なんとしてでも手に入れて、この手で破壊し……そして、EDソードの呪いを解く。

 その為に必要なアイテムの案も、既にいくつか考えてメモに纏めてある。──後は現物だけなのだ。


(頼む、出品されていてくれ……! そうすれば、何事もなく全て解決する筈なんだ……!)




◇




「──噂はどの程度広まっている?」


 グランゼリアの北端に構えられた、豪奢な屋敷の執務室。

 窓の外に浮かぶ三日月を見上げていた男が、徐に背後の薄闇へと問いかけた。


「は……既にグランゼリアの半分ほどには、広まったかと……」

「そうか……」


 報告に短く答えた男は、傍らの執務用デスクの引き出しから一つの冊子を取り出すと、それを薄闇へと放り投げ……新たな指令を下す。


「──今年の『サミット』には、貴様も参加せよ。そのカタログがチケットだ」

「! は……」

「『例の品』は今回の一件で高騰する。……程(・)良(・)く(・)盛(・)り(・)上(・)げ(・)よ(・)」

「承知いたしました」


 カタログを受けとった何者かの気配がフッと消えた事を確認した後、男は再び窓の外へと視線を向けると、自らの歩みを振り返るかのように呟いた。


「計画は順調だ。何もかもが、望んだタイミングで私の下に集まって来ている……! まるで、天がこの私に味方してくれているかのように……!」


 歓喜に震える声に昏い野心を乗せながら、窓から差し込む月明りを一身に受ける男は口端を吊り上げる。


「もうすぐだ……! もうすぐ、この国は私の物になる……ッ!」


 ──その夜、三日月のように歪んだ彼の口から溢れ出した高笑いが、屋敷の中に木霊していた。

今回でストックが尽きる為、次回からは更新が不定期になります。

(※不定期と言っても週に2,3回以上は更新する予定です!)

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