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第14話 情報の価値

 ゴロツキ達の案内について行くと、やがて建物の間に張られた簡易的なテントが密集する場所に出た。

 ここに来るまでにも感じていたすえた臭いが一層キツくなり、この場所が長い事彼等の住処になっている事が窺える。前世では直接関わる事は無かったが、これがスラムという奴なのだろう。


「……ここだ。この中に俺達のボスが居る。妙な真似はするんじゃねぇぞ」

「分かっている。ここまでの案内、感謝する」


 警告に頷き、テントへと一歩近付く。

 既にこのスラムに住むゴロツキ達がボスのテントと俺を包囲しており、剣呑な雰囲気を漂わせている。……どうやら彼等のボスは、相当に慕われているようだ。

 最低限の警戒を払いながら、俺はカーテンのようになっている入り口をくぐり、テントの中へと入って行った。


(! これは……)


 テントの中は凡そ四畳ほどのスペースになっており、この世界では高価な筈の本が十冊程、床に直接積み上げられていた。

 傍らには薄く積んだ草の上に布をかけただけの簡素な寝床と、その上にかけられたシーツのような布……見た目に拘らなければ、中々に文化的な生活を送っている事が窺える。

 そして、そんな部屋の中心には……このスラムのボスである壮年の男が一人、薄暗いテントの中でも堂々とした存在感と風格を纏い鎮座していた。


「──来たな……」

「……っ」


 たった一言。彼の口から低いしゃがれ声が投げかけられると、その瞬間に全身の神経が張り詰めるのが分かる。

 眉間に入った罅割れのような皺が更に深まり、鋭い眼光が俺を射貫く。

 過去に何かがあったのだろう。テントの中心で胡坐をかく彼の右脚は、膝の直ぐ下から簡素な義足になっているが、それでもビシビシと感じるこの気迫からは……


(──正直、外でゴロツキが見張っている必要なんか無いんじゃないか……?)


 万が一戦いになれば、今の俺ではどうあがいても勝てない。それ程の実力と、経験の差がある事が今の一瞬で分かってしまった。

 気圧された俺の様子に、彼はフンとつまらなそうに鼻を鳴らすと──早速本題を切り出した。


「話は部下どもから聞いてるぜ。『ディープ・カレント』に興味があるんだってな……?」

「……はい。貴方なら、場所を知っていると」


 慌てて姿勢を正し、頷く。

 向こうから話題を切り出したという事は、少なくとも会話には応じてくれるという事だ。俺は大人しく、彼の言葉を待つ。


「……十五ゼル、だな」

「! 情報料……ですね」

「俺にとって忌々しい話だ。短期間に二(・)度(・)も(・)話すとなれば、こんくらいは吹っ掛けても良いだろう……払うか?」

「……っ!」


 一体、彼はここまでの短いやり取りで何処まで見抜いているのだろう。

 彼のその言葉からは、俺の求める『もう一つの情報』の気配すらも感じられた。


(……試されている)


 即座にそう感じとる。十五ゼルを即座に払えるか……だ(・)け(・)で(・)は(・)な(・)い(・)。

 『もう一つの情報』を彼が持っている事に気付けるか、そして──『その情報にいくら出すか』。


「……」


 俺は無言でこぶしを握り、その内側に銀貨を取り出し……彼の差し出した手の上に、チャリチャリと落としていく。


「──二十ゼル……か。一先ず、及第点だな」


 彼は口元を薄っすらと持ち上げ、二十ゼルを懐にしまう。

 そして……ゆっくりと口を開き、話し始めた。


「『濁流の底(ディープ・カレント)』の会場は、開催する度に変わる……その場所は、例えお得意様でも、実際にこの街に足を運ぶまで知る事は出来ない」

「……」


 恐らくは、参加者以外の人物に場所を特定されない為だろう。やはり会場に関しては、特に厳重に守られているらしい。


「だが、受付に限ってはそうじゃない。あそこは出品された物の管理や保護の為、巨大な地下金庫が併設されている。今年も、来年も、再来年も……受付の場所だ(・)け(・)は(・)変えられない」

「それは……受付に行けば、会場も教えて貰える……と言う事ですね?」

「ああ──五十ゼルもする『カタログ』を買えばな。冒険者でも気軽に出せる値段じゃねぇが……お前なら問題ねぇだろ?」

「……」


 確信しているようにこちらを見る男に、無言でもって返答とする。

 見透かされているのは不気味だが、その分彼の情報には信憑性がある……そう思えた。


「受付の場所は、この街の中央広場にある商業ギルドの裏にある『黄金運河』ってデカい宿だ。年中豪商や貴族が泊まる宿で、そこの受付に無言で一ガルを差し出す。……必ず『金貨一枚』、それがサインだ。すると受付はそれを黙って受け取り、奥の棚から一冊のカタログと、五十ゼルが入った袋を返してくる。カタログには今回のオークションで取り扱う物品の一覧と、会場の場所が書かれている……分かりやすいだろう?」

「……なるほど」


 中々に合理的な構造になっている。

 確かに普段から貴族や豪商が出入りする宿であればセキュリティーが過剰だったとしても、その事自体は怪しまれないし、彼等が頻繁に出入りするのも自然だ。

 なんなら外からやって来た貴族は、実際にそこで寝泊まりしてオークションの開催日を待つのだろう。

 ただ……


「──俺のような服装だと、悪目立ちしそうですね……」

「気にするな。稼ぎ始めたばかりの冒険者が、ちょっと羽目を外して一夜限りの豪遊に浸る……この街じゃなくても珍しくねぇ。──ア(・)イ(・)ツ(・)も、そうやって出品したんだろうぜ」

「! アイツ……ですか」


 彼の言葉に、思わず身を乗り出す。

 やはり、こっちの情報も持っていたか……そんな確信から、ついつい分かりやすい反応を示してしまった俺にフッと笑みを溢した彼は、続けてこう話した。


「数日前、奴もここに来た。『珍品を出品したい』ってな。お前の本当の目的は、寧ろこっちなんじゃねぇか……?」

「その男の特徴は……!?」

「くせ毛の黒髪を、頭の後ろで纏めた男だった。人相を誤魔化す為か髭も剃っていたようだが……剃り跡が新しかったから、恐らく少し前はもっと伸ばしていたんだろう。──丁度、こ(・)の(・)人(・)相(・)書(・)き(・)の(・)よ(・)う(・)に(・)な」

「!」


 そう言って彼が傍らの本の隙間から取り出した手配書には、間違いなくあの晩に俺のEDソードを盗んで行った男の顔が描かれていた。


「な……っ、なんでそいつにオークションの受付を教えたんですか!?」

「奴もまた情報料を払ったからだ。金と力が全て……『ここ』はそう言う場所だ。お前もそ(・)れ(・)を当てにして、ここに来たんだろう?」

「……くっ」


 そうだ。確かに『ここ』は、そう言う単純なルールだけが支配する場所だ。

 だからこそ……貴族とのコネも無い俺が、金でディープ・カレントの情報を買えたんだ。


「奴はあの後『珍品』とやらを出品したんだろうが……──まぁ、多分手遅れだろうよ」

「……手遅れ? それは、どう言う……」

「『カタログ』を見りゃ分かるさ。そして──お前はきっと、またここに来る事になるぜ」


 意味深な笑みを浮かべた彼は、最後にそう言うと、出て行くように顎をしゃくる。

 ……欲しかった情報は、確かに買えた。彼の最後の言葉に引っ掛かる物はあるが、ここでの要件は済ませた以上、長居するべきではないだろう。


「……ありがとうございました」

「礼も要らねぇよ。ここでは無意味な礼節だ」


 ぶっきらぼうな返答を背に聞きながら、俺はボスのテントから出る。

 そして、周囲のゴロツキからの視線を受けながら、スラムを去ったのだった。


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