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第13話 情報を求めて

「ようやく着いたな──グランゼリア……!」


 馬車から降りた俺の目の前には、ポルタムの街よりも活気のある大都市の光景が広がっていた。

 石畳で舗装された大通りには無数の馬車が行き交い、通りの両脇には街灯らしきものが等間隔に設置された歩道も整備されているようだ。

 人々は時折近くを通る馬車に目を向けたり、建ち並ぶ商店の中に入って行ったりと思い思いに過ごしている。

 馬車の車輪が石畳を転がる音と、人々の声が作り出す凄まじい活気は、どこか前世の都会にも似た雰囲気を醸し出していた。


(凄いな……当たり前のように四階建ての建物が並んでる。一部はもっと高いぞ……)


 ポルタムの街では、殆どの建物は二階建てか三階建てだった。

 その光景に慣れてしまった所為か、前世ではそこまで珍しくもない高さの建物にも関心の目を向けてしまう。


(──っと、いけない。これじゃあまるっきり、おのぼりさんじゃないか。早いところあの盗人や、闇オークションについての情報を集めないと……!)


 この街に来た目的を思い出した俺は、歩道を行く人に道を尋ねながらとある建物へと入って行った。




「いらっしゃい、何を飲むんだい?」

「いえ、酒を飲みに来た訳じゃないんですけど……」


 ムワッと立ち込める、アルコールの匂いと熱気。……そして、特有の活気。

 『情報収集なら酒場だ』というファンタジーの定石に従い、俺はグランゼリアの大通りに面した酒場『エールの泉』へと足を踏み入れていた。

 

「──あんだぁ!? そんな若いのに、飲まなくてどうするっ!?」

「どう言う理屈……!?」

「酔った客の言う事です、聞き流してください。それで、お客さんはどんな用で……?」

「あぁ、そうだった。人を探してるんですけど──」


 俺のEDソードを持ち去った盗人……『黒い縮れ毛の男』を見た事が無いか、酒場の主人に尋ねた。

 あの男について詳しい訳ではないが、見るからに粗野な風体だった事は覚えている。

 いかにもこういう酒場に足繁く通いそうな雰囲気だったし、あった事があるのではないかと考えたのだが……


「うーん……多分、ここには来てないね」

「そうですか……それじゃあ、もう一つ質問を──」


 直接的な目撃証言が得られなかったのは残念だったが、俺は直ぐに気を取り直して別の質問を投げかけた。


「──この街で『珍しい物が一番集まるオークション』って、どこでやってますか?」

「あぁ……お客さんもその口かい。まぁ、珍しい話じゃないんだがね……」


 そう前置きした主人は、続けてこう話した。


「お客さんが言うオークションって言うのは、多分『濁流の底(ディープ・カレント)』の事でしょう?」

「ディープ・カレント……?」

「正式名称は知りませんがね……表立って開催されるオークションとは別に、お貴族様やその知り合いの大商人がこぞって集まるオークションの事を、この街ではそう呼んでるんですよ。モノによっては落札しようとする熱狂の声が、まさに濁流の様に他の声を押し流すそうで……」


 話を聞く限り、俺が探しているオークションの事で間違いないだろう。

 流石は酒場の主人。情報に通じているようだ。


「──ですがね、肝心の場所に関しては私も知らないのですよ。何せ、やんごとなき方々の社交場です。情報は特に厳重に隠されています。……時期や存在そのものは、過去にどなたかが護衛に連れていた冒険者の口から漏れたようですがね」

「そうですか……ありがとうございました」


 得られた情報は少なかったが、闇オークション『ディープ・カレント』が確かに存在する事と、その名前は知ることが出来た。

 俺は感謝の言葉と共に、情報料として一ゼルをカウンターに置き、立ち去ろうとする。

 すると──


「──あぁ、そうだ。確かに私は場所については知りませんがね、昔から『闇の道を知るには陰を見ろ』と言います。『彼等』の口は固いですが……『マスターキー』があれば、開くのも容易いかと……」


 振り返った視線の先で、主人が俺の置いた銀貨を手にこちらへと視線を向けていた。




(『闇の道を知るには陰を見ろ』……多分、こっちの世界のことわざのようなものだろう。意味は知らないが、何となく彼が伝えてくれた意図は分かる)


 グランゼリアのような大都市では、どうしたって貧富の格差は生まれるものだ。

 そして……華々しい世界のすぐ裏には、闇一歩手前の昏い陰があるのもまた道理。すなわち──


(スラムか……確かに『そう言う情報』を持っている人も居るかもしれないが……)


 今、俺の目の前には、まさに光と陰の境界線がある。

 四階建ての建物に挟まれた細い路地裏には日の光も届いておらず、真昼だというのに洞窟の様な薄暗さだ。

 その奥には陰の中に佇む数人の輪郭が浮かびあがっており、その眼は光を妬むように鋭くこちらへと向けられていた。


(……入るの怖ぇ!)


 何と言うか、彼等の『こちらを値踏みするような視線』には、魔物と戦うのとは全く違う恐怖がある。

 魔物とは違って、何をしてくるか分からないと言うか……


(──いや、だけど情報を得る為だ……!)


 覚悟を決めて陰の中へと一歩踏み込む。

 ──すると早速、奥から数人の男が現れて俺を取り囲んだ。


「まさか進んでこっち側に来るとはなぁ……」

「良い度胸してんじゃねぇか、坊主」

「チッ……賭けは俺の負けかよ。何で入って来てんだテメェ……!」

「ま、結果的には好都合だ。さっさと引きずり込んでやろうぜ」


 解ってはいたが、やはりまともな人間ではない。

 ガラの悪さもそうだが、何より目がヤバい。犯罪行為が日常的に選択肢に浮かぶような人間……そんな目だ。

 このままでは身ぐるみを剥され、場合によっては口封じに殺されかねない。その前に……


「──待て、俺はただ情報を買いたいだけだ!」


 正直怖いが、ここで怯めば相手を調子付かせるだけだ。強い眼と口調を意識し、彼等にこちらの用事を伝える。

 しかし──


「『買う』だぁ……? テメェの財布、石しか入ってねぇじゃねぇか!」


 いつの間に俺の懐からスッたのだろう。そう言うごろつきの手には俺の袋が握られており、彼がそれをひっくり返すと、中からゴロゴロと石や砂利が地面へと転がり落ちた。

 その様子を見た周囲のゴロツキは、額に青筋を浮かべながら息を荒げる。


「こんなもんで俺らを騙そうとしたってか……?」

「テメェ、舐めやがって……ッ!」


(マジかぁ……ダミーの財布が状況を悪化させる事ってあるんだぁ……)


 正直、想像を超えて状況が悪化した事に驚いたが、しかしまだだ。まだ活路はある筈だ。


(こいつらの言葉からして、やはり目的は金だ! だったら、先ず現物を見せるのが一番早い!)


 俺は降参を示す様に両手を挙げ、拳を作る。そして──


「落ち着け。金ならこ(・)こ(・)にある」

「な……!?」

「その金、どっから……!?」


 拳の中に出した銀貨を一枚、人差し指と中指に挟んで示すと、彼等の目は忽ち変わった。


(よし、釣れた──!)


 指で挟んだ銀貨を不思議そうに見つめるゴロツキ達へと放り投げると、彼等はそれをこぞって確かめ、それが本物である事に更に驚いている。

 ……路上パフォーマンスするマジシャンって、こんな気分なのかもな。なんて事を考えながら、俺は彼等に向けて改めて要件を伝えた。


「先ほども言ったように、俺の目的は情報だ。それが得られさえすれば、君達に無用な干渉はしない。──『ディープ・カレント』について詳しい人物を、紹介して欲しい。『それ』はその紹介料だ」


 彼等は互いに目配せし、頷き合うと、俺を案内するように路地裏の薄闇へ向かって歩き始めた。

 ……連れてきてくれる訳じゃないのか。と残念に思いながら、周囲を警戒しながらも俺はグランゼリアの陰へと踏み込んでいくのだった。

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