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第10話 新しい装備を求めて

(──ふぅ……なんやかんやあったが、腹は膨れたな)


 夕飯を食べ終え、借りた部屋で一人ため息を吐く。

 部屋の内装はシンプルな物で、窓が一つとその傍に一人用のベッドが一つ。そして窓に面しない壁際に小さなテーブルと、その傍には椅子も一つ。

 それ以外はクローゼットが一つあるだけだった。

 ここで一晩を明かすのだと考えると、少しワクワクするような心許ないような気分だ。


(金庫とか無いんだな……)


 懐から取り出した袋を机に置き、念の為に部屋を調べるが、やはり金庫の類は見つけられなかった。

 一つとは言え金貨が入った袋……そうでなくとも、俺の全財産だ。

 部屋や窓にはカギがかけられるとは言え、出来る限りの用心はしたかったのだが……


「……やっぱり、『盗まれない財布』みたいなアイテムを創るのが一番だろうなぁ」


 盗まれない財布……そんな物があれば、非常に便利なのは間違いない。ただ──


(──それっぽいアイテム、創作物で滅茶苦茶多いんだよなぁ……!)


 盗もうとすると痛い目を見るタイプや、盗まれても戻ってくるタイプ等、この手のアイテムは非常に多い。

 それだけ需要があるという事なのだが、そう言う需要が高いものほど創れないのが【創造】という能力なのだ。


(装備も欲しいが……これは最悪、普通の装備をこの街で買い揃えても良いか……)


 良い感じの装備がパッと思いつかないのも理由の一つだが、何よりEDソードのような恐ろしい魔剣をまた生み出してしまう可能性がある。

 深夜テンションで創るには、あまりにもリスキーだ。


(とにかく、先ずは財布だな。財布が創れた後で、時間があれば……鎧くらいは創ろうかな)


 俺は硬いベッドに腰掛け、机の上の袋を見ながらアレコレと思考を巡らせるのだった。







「──朝ですよぉ! 起きてくださーい!」


 翌朝。俺はエルザの元気な声と、ノックの音で目を覚ました。

 薄い布のシーツを捲り、上体を起こすと机の上へと視線を向ける。

 ……そこには、中身を失いぺちゃんこに潰れた袋がポツンと置かれていた。


「ッ! ぁ……っ!」


 一瞬でゾワッと全身の毛が逆立つような錯覚。

 俺は咄嗟に机へと手を伸ばし……──その瞬間、昨夜創った『新しい財布』が目に入り、ホッと安堵の溜め息を吐いたのだった。




「──あっ、起きてきましたね! おはようございます! 朝ごはん、出来てますよ!」

「あぁ、うん。おはよう……」


 一階に降りると、先に降りて来ていたエルザが元気な笑顔で挨拶をしてくれる。

 俺もつられて挨拶をしたのだが、彼女はそんな俺の顔を見て僅かに表情を曇らせた。


「はい! ──って、あれ? そのクマ……もしかして、ウチのベッド、寝苦しかったですか……?」

「え? ……あー、いや。そう言うんじゃなくて、これは俺が昨日夜更かししちゃった所為だから、気にしないで」


 昨夜は夜遅くまでアレコレと頭を悩ませていた所為で、すっかり寝不足だ。

 酷いクマが出来ている俺の顔を見て、ベッドに問題があったのではと不安にしてしまったのだろう。


「もう! 冒険者は身体が資本なんですから、体調管理はしっかりしなきゃダメですよ!」

「はは……ゴメン、ゴメン」


 自分より何歳も年下の女の子に正論で叱られてしまった。これは反省しなければ。

 ──と言っても、もう同じ理由で夜更かしする事も無いだろうけどな。必要な物はちゃんと創れたのだから。


「……あれ? 昨日、そんな手(・)袋(・)してましたっけ?」

「ん? あー、昨日はつけてなかったね。どう? 似合う?」


 そう言って、俺は両手に嵌めた手袋を見せつけるように拳を作る。

 パッと見の材質は、それこそどこにでもありそうな革だ。特に怪しまれなければ問題ないと思い、見せてみたのだが……


「あー……あはは…………えっと、良くお似合いです……よ?」

「えっ」


 何だろう。さっきまでの快活な笑顔が嘘のように引き攣っている。接客は笑顔が大事だろ。営業スマイルはどうした。

 しかも、目が凄い勢いで泳いでいる。これは、もしかして──


「……ひょっとして…………──ダサい?」

「…………えっ……とぉ…………──あっ! 私、朝ごはん持ってきますね!」


 そう言い残すと、エルザは逃げるように厨房へ駆けて行ってしまった。

 ……そっかぁ。


(ダサかったかぁ……このデザイン……)


 何が駄目だったんだろう。

 ……手の甲が露出してるとこかな。それとも、手首を固定するベルトのマジックテープかな。

 深夜テンションでデザインを考えたからだろうな。俺のセンスが致命的にずれている訳ではない筈だ。多分。


「──ん?」


 ふと視線を感じて、チラリと食堂へ振り向く。

 サッと複数人の冒険者たちが、一斉に俺から目を逸らしたのが分かった。そんなにか。そんなになのか。


(……どうしよう。コレ……財布なんだけど……)


 そう。この手袋こそが俺の新しい財布だ。

 手で拳を作って取り出したい金を念じると、拳の中に念じた分の貨幣が出現し、逆にしまいたい時は貨幣を握りしめて念じる事で収納できるという優れもの。

 傍から見ればただの手袋で、財布と思われないからこそ狙われない。そう言う仕組みだったのに……


(これを着けている間、俺はずっとダサいって思われるんだな……)


 深夜に創らなければよかった。心の底からそう思いながら、俺はトボトボと食堂の隅のテーブルに着いたのだった。




「──ご利用、ありがとうございました! また来てくださいね!」


 朝食を済ませ、鍵を返し、俺は一泊した『メヌリナの木陰』を出た。

 エルザの見送りに、手を振って返そうと思ったが──止めた。多分、俺の手袋を見れば、気まずい思いをさせてしまうだろうから。


(ふ……もう、気軽に手も触れないのか……俺は)


 なんて冗談を考えながら向かったのは、昨日『やたら固い癖に痛がる盾』を売った装備屋だ。

 あの時はつい何も買わずに出てしまったが、流石は専門店なだけあって鎧から剣まで色々な装備が揃っていた。

 昨夜は結局『サイフ手袋』を創った後すぐに寝てしまい、装備は一つも創れなかったからな……冒険者として本格的に活動を始める為にも、まともな装備をここで揃えようと思ったのだ。


「──いらっしゃい。……って、アンタか。今日は何の用だ?」

「今日はちょっと防具を買いたいんですけど、どんなのが良いか教えてくれません?」

「防具ねぇ……確かアンタ、旅人だって言ってたか。それなら、軽いレザー製が良いだろうな……」


 そう呟きながら腰を上げた店主は、一つのレザーアーマーの前で立ち止まる。


「──コイツなんかどうだ? 上下揃えて銀貨一五枚(一五ゼル)と普通のレザーアーマーより多少値は張るが、急所を保護する為に『ナーマル鋼』のプレートがピンポイントで仕込まれてる。野盗のサーベルくらいなら、軽く弾いてくれるぜ」

「おお……良いですね! これ買います!」


 こげ茶色の革は中々に分厚く、しかも内側には鈍色の金属板がいくつか張られている。確かにこれなら、ちょっとやそっとでは貫けなさそうだ。

 デザインも気に入ったので、即決で購入する。


「まいど。……昨日の金、まだあるだろ? なら盾も買っとけ。軽さ重視ならバックラーだが──アンタじゃまだ使いこなせそうもねぇな。……なら、こっちか。『ナーマル鋼』製のヒーターシールドだ。例の盾と似たような大きさだし、これなら使えるだろ? こっちは銀貨一二枚(一二ゼル)だ」

「買います!」


 『ナーマル鋼』というのは軽い金属なのかもしれない。

 試しに持たせて貰ったが、確かに軽いし扱いやすそうだと購入を決める。

 そんな感じで勧められるまま、俺は装備を買い揃え──




「──全部合わせて銀貨四七枚(四七ゼル)だ」

「あ、はい。少し待って下さいね……」


 取り出した袋に手を突っ込み、中で握った拳から金を出す。

 こうする事で、対外的には依然この袋が俺の財布だと思わせるのだ。その為にダミーの石を入れて袋を膨らませている。中身さえ見られなければ、これで偽装は出来るだろう。

 そしてカウンターに銀貨を置いて行き──


「……なんだぁ? けったいな手袋してんなぁ……ちょっと店の趣味悪いんじゃねぇか?」

「……」


 心に秘かな傷を負いつつも、俺は新しい装備を買い揃えることが出来たのだった。

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