『大団円』
44話です。
大団円とは、小説、演劇、映画などで、物語のすべてが円満に、めでたく解決して終わる「ハッピーエンドの結末」を指す言葉です。単なる最終場面ではなく、“出演者全員”が納得して丸く収まる「大団円を迎える」という表現で使われることが多いです。
6時間後、後に“英雄の真の始まり”と呼ばれる宣言が行われた。そこに集まったメディア数はテレビ社新聞社、ネット媒体や海外の著名メディアを含めて延べ4000社になった。
記者達は会見で英雄の発言を捉えようと必死だった。実際、映像や写真を撮れなければ、誰にも見向きもされないのが今のメディアだ。この場では死ぬ気で何かを持ち帰ろうとしていた。
以前の狭い会議室では人が入りきらないと読んだ官房長官は、官邸前の路上を貸し切り、そこで会見を開くことにした。
進行を進めていた官房長官が最も写真を撮られたのはこの時だろう。その手には鉋に渡された小さな紙切れが握られていた。
「長らくお待たせしました。我ら対特の英雄、いや!世界の英雄――“加羅木鉋”です。」
カメラのフラッシュが激しく焚かれ、カメラを動かす腕がシンクロするように動いていく。
「ご紹介にお預かりました。加羅木鉋です。この度は私の発表を皆様の力をお借りして、全国に届け、ある目的を実行するためにお呼びしました。」
「その目的は何ですか!」とある記者が叫んだ。
「私からマギアへ、悪へ向かっての宣戦布告です。」
その宣言に誰も黙り、会場が静まり返ってしまった。ペンを書く指が止まり、カメラを動かす腕が止まる。
ただ、無意識に押されたカメラのシャッター音だけが鳴っていた。
しかし、ある記者が叫んだ。熱狂は人に伝播する。1人が狂えばその熱に乗るのが人間だ。
熱狂の原因は欲しかった言葉が聞けたからか、マギアのことを恨んでいたからか、英雄の行動に頭をやられていたからか。
もしくは、誰かに叫べと命令されていたからか。ただ、この場では鉋の関心はさほどなかった、成功以外のことは考えていなかった。
鉋は安堵した。これからの展開は想像通りだと。
「決戦の日は明日の夜19時!私は逃げない!場所は――因縁のセントラルタワー!」
その言葉は誰がどうしたって目的の相手に届くだろう。そこを住処とする誰かにも届いたはずだ。
「……お集まり頂きありがとうございました。私、加羅木鉋からの言葉は以上となります。改めて……私に期待していてください。」
誰かが言ったかまさにそれは“英雄の戴冠式”だったと。
――翌日、朝のニュースでは二つの話題が持ちきりだった。
一つは英雄の宣戦布告、もう一つはマギアの組織のアジトが壊滅していることについてだ。その場には死体しか残っておらず、まるで深夜間に奇襲を仕掛けられて全滅したようだ。
その件については政府の見解は、「我々の秘密作戦の結果である」と答えた。
ニュース側も鉋の宣戦布告は陽動であり勝負を有利に進めるための作戦の一部だったという専門家や、これは英雄的な行動と言えるのか?と揶揄する評論家じみた解説者などが動画を上げていた。
どの人間の見解で共通していることは「怪物は英雄に後れを取った」であった。
世間の緊張が高まる中でいつものように、何かをぶつくさと言っている鉋の姿が今も官邸にあった。
先日の大成功は予定の一部だと糠喜びせずに今は各メディアとの交渉を行っていた。
その後はいつものようにスマホを片手にまるで年頃の女子高生のようにだらけていた。
「何を見ているんだ?」
「ネット掲示板ですよ。ここが一番生の世論を集めやすい」
「見せてくれ」
鉋は官房長官に自身のスマホを見せる。
――
【速報】英雄JK、マギア氏へ正式に宣戦布告
1:風吹けば名無し
明日19時セントラルタワーらしい
4:風吹けば名無し
ガチでやるんか……
7:風吹けば名無し
映画かよ
12:風吹けば名無し
「私は逃げない」←ここ好き
18:風吹けば名無し
マギアは流石に逃げたらダサいよな
21:風吹けば名無し
いや普通に怖いんだけど
世界の命運女子高生に乗ってるやん
22:風吹けば名無し
マギア側のアジト壊滅してるのヤバすぎる
29:風吹けば名無し
政府の秘密作戦って言ってたぞ
31:風吹けば名無し
どう見ても鉋の陽動作戦だろ
宣戦布告で引き付けて裏で潰した
36:風吹けば名無し
有能すぎて草
42:風吹けば名無し
いやでもあの歳で人殺しすぎじゃね?
47:風吹けば名無し
そもそも相手が人殺しだろ
53:風吹けば名無し
今北産業、なんのスレ?
59:風吹けば名無し
三日で世界規模組織作った怪物のスレ
64:風吹けば名無し
↑字面だけで終わってる
71:風吹けば名無し
管理人倒した奴と三日で世界取った奴が戦う世界
79:風吹けば名無し
もう終末じゃん
84:風吹けば名無し
てかマギア側のタヒ体画像流れてきたけどガチっぽい
91:風吹けば名無し
見たけどやばかった
壁ぶっ壊れてるし血の量おかしい
98:風吹けば名無し
鉋ちゃんマジで勝てるんか……?
104:風吹けば名無し
水龍倒した時点で人間辞めてる
111:風吹けば名無し
あの水害止めたの普通に救世主やろ
118:風吹けば名無し
でも鳴神ってやつ危険なんだろ?
124:風吹けば名無し
内部リークだと一回死にかけたらしい
129:風吹けば名無し
英雄に全部押し付けすぎだろ
136:風吹けば名無し
可哀想になってきた
143:風吹けば名無し
でも他に止めれる奴いないじゃん
151:風吹けば名無し
マギアが負けるイメージ湧かねえ
158:風吹けば名無し
逆に鉋が負けるイメージも湧かねえ
167:風吹けば名無し
怪物vs英雄
174:風吹けば名無し
これリアルタイムで見れるのヤバいな
182:風吹けば名無し
現地行くやつおる?
188:風吹けば名無し
いるに決まってんだろ
歴史の目撃者になるんだぞ
194:風吹けば名無し
普通に危険で草
197:風吹けば名無し
普通に交通規制を政府が
かけるから無理ぞ
200:風吹けば名無し
メディアもクソ文句言ったらしいな
201:風吹けば名無し
でもさ
205:風吹けば名無し
なんや
213:風吹けば名無し
もし鉋が負けたら人類終わりじゃね?
221:風吹けば名無し
やめろ
229:風吹けば名無し
縁起でもないこと言うな
231:風吹けば名無し
皆んなで力を合わせたら
勝てるやろ
237:風吹けば名無し
俺らで大団円よ
鉋ちゃんは俺と結婚な
240:風吹けば名無し
↑タヒんでこい
――
「面白いですよね?私が負けたら世界が終わるのに、こんな風に言い合っているんですよ」
「他の媒体は見たのかね?」
「他のSNSは範囲が広くて、この辺の雰囲気を拾うならこれが最適なんですよ。」
「余裕だね……。勝てるビジョンは見えているのか?」
「……勝ちますよ。勝って……。こんな世界は終わらせますよ。それを待っているのはあいつなんで……。」
ある家の縁側、昼から酒を飲んでいる男性がいた。その横には娘と思わしき人物が立っていた。
「お父さん!こんな昼から飲んで!世界が終わるかもしれないんだよ!」
「うるさいな〜!飲まなきゃこんなのやってられっか!……おう、柳、お前も飲むか?」
「私は遠慮しておく」
「そうだよな〜、お前は飲んだら暴れるもん」
「止めたのか?」
「何をだ?」
「カンナとマギアだ」
「俺ら大人が止めるような話じゃねえよ。そもそもカンナの方は腹が決まってたみたいだしな。」
「そうなのか……」
「それに、言い出しっぺは恐らくマギアだ。どうせあいつのことだ。全部を解決するのか言い始めたんだろ。」
「私は己の無力を恥じる。何もできないのがこんなに辛いとは。」
「うるせぇ!お前は誰にも負けないだろ。たくよ~。それにしても最後にあいつの剣を研いだのはいつだっけな……?そういやお前は何で来た?」
「テレビを見たらカンナが映っていて、マギアもこんな映し方をされていたから、お前に聞きに来た次第だ。」
「お前……知らなかったのか……この機械音痴め。」
「うるさい……。」
そして夜の19時から10分前となった。世間の緊張は最大に達していた。テレビをつけても遠くからの撮影しかできないため、遠方から様子を見ることしかできなかったためである。
交通規制はセントラルタワー周辺の10キロ圏内で行われたためカメラが近くにはいる余地などなかった。
そして、英雄は1人セントラルタワーの屋上に立っていた。
そこにはメディアで噂されている怪物が立っていた。
「おい、約束を破ったな!カンナ!」
「負けそうだったからさ、あれっきりは使わないって決めたから安心して。」
訂正しよう。英雄というにはあまりにも理知で狡猾すぎる。
怪物というにはあまりにも優しく、微笑ましすぎる。
「あれやったのマギア?」
「あれ?ああ、アジトのことか。あれは俺だな」
「一人でやったの?」
「当たり前だろ、こう、後ろからぐさりぐさりだ。」
マギアは手を交互に前後ろに出すようなジェスチャーをした。
「何それ、可笑しなの!」
カンナは久しぶりに笑ったのだろう。彼との再会に邂逅に心から笑った。
「ごめんね。こっちの役割任せちゃって……。」
「いいんだ。それにしてもカンナはアカデミー賞ものの演技だったな!」
「やめてよ!恥ずかしい!……」
少しの談笑を終えた後で、鉋から切り出す。そろそろ始めなければ駄目だと思ったからだ。
「じゃあ、始めようか……。相棒。」
「ああ!恨みっこなしだぞ……。カンナ!」
――最高の喜劇が始まる――
柳さんがやっと再登場させることができました。
やったね。
ちなみに権蔵さんは娘さんが2人います。
年はカンナと同年代か少し上です。




