『英雄の欠陥』
43話です(追記 こいついっつも話数を間違えてるな)。
喜劇はお好きですか?
――鉋が意識を失う数秒前、あるビルの屋上。
「鳴神を使ってしまったか……やってくれ……」
「了解」
男の手元にはスナイパーライフルが握られていた。
そして、合図とともに引き金を引いた。その指に迷いはなく確実に打ち抜くためだけに撃った。
弾丸は鉋の肩を貫いた。
瞬間、 身体内部に滞留していた雷が破裂するように吹き出す。
放電と共に弾丸が背中側から貫通した。
「対象鎮圧完了しました」
「良くやった、後は休んでいてくれ。」
その男は戦場を最初から見ていた最悪の可能性を鑑みて、それを止める為に命の危険があるにも関わらずに英雄と神の戦闘を観ていたのだ。
「乗せろ!今すぐICU(集中治療室)に回すんだ!」
「英雄を死なせるな!この娘が亡くなったらいよいよ総力戦だ!」
その後、鉋はICU(集中治療室)で8時間にも渡る手術を受けた。全身の血管の炎症および火傷。水龍の攻撃により身体中に空いた穴。肉体から足りなくなった血液。
打撲、骨折、捻挫、切創、擦過傷……。
どれもが人間の肉体とは呼べる代物ではなかった。しかし、医者たちのおかげで最悪の最悪は免れた。
鉋が起きたのは手術から約28時間後、水龍戦からは約36時間後だった。
英雄の起きて最初の一言はこうだった。
「水龍はどうなった?」
その一言を聞いて、官房長官は震えながら答えた。
「即死だったよ……おそらくは苦しむ暇もなかっただろう……」
鉋はそれを聞き、少し考えて安堵した。官房長官は鉋の顔を見ながら何かを伺っている。
「どうしたんですか?顔に何か付いてます?」
「いや、そういうわけではないんだ。一つ質問いいかね」
「構いませんけど」
「あの“鳴神”とは何だね?とてもではないが人の業ではない。使わないからと概要だけしか聞かされていなかったが、私たちにはあれについて聞いておく義務がある。」
「義務ですか……。そうですね、鳴神は私が勝手にそう呼んでいるだけなんですけど……。前提として私のヒューマは体内に貯めた電気を消費して強化するんですよ。それの消費量で動きが変わるみたいな感じです。」
「ほほう。では、あれは電気消費量が肉体の限界を超えたものなのか?」
「合っていますが、少しだけ補足をさせてもらいます。私の中で消費量が80%を超えた際の過電流状態のことです。その際に肉体の電気負荷がかかりすぎて、他の機能が一時的に麻痺しているのだと思います。通常、私はヒューマを解除できるのですが、そうなるとできないのです。」
「だから、我々に処理を頼んだのだね」
「そうです。私のヒューマの場合は、血管が電線の代わりになっています。現実でも過電流で電線が焼き切れることがあります。それと同様に全身の血管が焼き切れるのです」
「酷いな……」
「そうまでしないと勝てない相手でしたから。でも、これからはもう使いません。」
「その通りだ。君の肉体は既に限界に近い。次に同じ状態になれば、確実に死ぬだろう。」
後ろから声が聞こえ、そちらを見ると白衣の男性が立っていた。
「2度も同じことをして、生きているとは奇跡ともいえる。しかし、命を馬鹿にしているともいえる。3度目はないぞ。」
「はい……。反省はしています。」
「もう、“約束”は破りませんよ。」
「よろしい、それで身体の方は万全なのか?」
鉋は腕を上げ下げしたり、手のひらをグッパグッパしたりして調子を確かめる。そしてベットから立ち上がり、よろけながらも立ってみせる。
「どうやら大丈夫みたいです。」
「3日は安静だ」
医師が後ろからストップをかける。
「その間の業務は我々に任せてくれ。施設内なら見回ってもいいだろう?」
官房長官は医師に確認を取り、それに無言で頷いた。
「とのことだ。そうだ、ほかに聞きたいことはあるか?」
「街の被害は……水龍の影響はどうなりましたか」
「そのことについてだが、水龍を撃破した後、能力が解除されたのか、水の固形化は解かれ、排水システムで水はすべて除去された。そして、不幸中の幸いか水龍は水を表面で固定させて物を動かさないようにしていたため、物的損害はほとんど0に近い。被害者のケアはこちらで行なっているが半数以上は日常に戻っている。」
「それは良かったです。」
「はっきり言おう、この戦いは我々の完全勝利だ。改めて礼を言おう。そして、これからもよろしく頼む。」
「こちらこそです」
―そして、3日後。
「それでは世論をまとめようか。その前に鉋君はもう既に動ける状態なのか?」
「ええ、問題ないですよ。異常な回復力でしたが。」
医師はため息をつきながら肩をすくめた。まったくヒューマとは訳がわからないと小言を言いながら出ていった。
「……では、話を進めようか」
「はい、それでどうなりました?メディア対応や治安維持はやるとおっしゃっていましたけど」
「メディア対応か。結果としてはだね。世論の大半はいや、8割以上は加羅木鉋を英雄として受容している。2割の意見はこういう場に現れるお約束のアレだ。連日、テレビメディアや広告媒体などでは君のことを聞かないことはないな。」
「いいですね。治安維持の方はどうなりました?」
「治安維持の方はこちらで君が減らしてくれたアジトを壊滅させるまではいかなくても抑制させるところまではできたよ。一対一で睨み続ければ相手が何もできないほどには。」
「マギアは?」
その質問で部屋の空気が一変した。誰もが目を逸らし、官房長官に目線を送る。私は官房長官の目を見つめ続ける。
「そ、それは世間的なイメージを聞いているのか……それとも、軍事的な――」
「両方です。知っていることを洗いざらい話してください。」
「マ……マギアは世間的には“得体の知れない怪物”、“諸悪の根源”、“人間ではない”と言われている……。軍事的には――」
「――もういいですよ。そうですか……じゃあ、次に進めたほうがいいですね。」
「次?何をする気だ?」
「怪物を……マギアを退治します」
「今からか!やめておけ!まだ、時間が――」
「――今だからです。世論の支持が最大の時に行動を起こすのは政治の定石ですよね。今、私は“英雄”加羅木鉋として、最大の支持と期待、そして注目が集まっています。ここでやらなければ私の行動の全てが無駄になります。」
「そんなことは――」
「――ありますよ。どうしますか?正式な形で宣言するか。私が公道でゲリラ的に宣言しますか?決断するならコントロールできる今の方がいいですよ。」
「……分かった……。2時間後……いや、5時間以内に手配をするから待機していてくれ……。」
「感謝します。官房長官。あなたが躑躅森さんの後継でよかったです。死に際に躑躅森さんは言ってましたよ。私の後継はあなただって……。」
「そんな感謝も遺言もいらん。アレだ。わしは少し1人になるから時間を6時間に延ばしてくれ。」
「いいですよ。今日中にお願いしますね。」
無言で官房長官は出ていった。約束した手前ここで動くのは違うよな。考えておくか。とても幻想的で現実的な劇的な台詞を。民衆が食い付くように徹底的な演出を。
――世界が一生記憶するほどの喜劇を。――




